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「お前の発情期について教えろ。隠すとかもう考えるな。」
俺は、無意識のうちにいつもより低い声でそう言い放っていた。
楠本はビクリと一度体を強ばらせるとぎゅっと布団を握りしめて俯いた。
少しは優しくされると思っていたんだろう。
しばらく俯いたままいたが決心したように直にポツリと語り始める。
「…普通なら、3ヶ月周期で来るはずなのに俺は…それが不順なんだ。終わってすぐ来たり…一ヶ月に一度とか。二日で終わったり…も、ある。」
「今まで医者に診てもらった事は?」
「…ん、……」
その問いに答えずに首を左右に振った。
親が医者なら話をすれば診てくれるか医者にかかることを進めるだろう。
楠本の言っていた通り親子の仲が良くないなら仕方ないだろうが。
…だが、これは少し厄介すぎる。
「今まで誰かに相談した事は無かったのか。」
「家族には言った。でも、……その…、っ…ぇ、っと……」
「なんだ、はっきり言え。」
「ん、……今は様子見よう、って…言われた。」
そう言うと一層小さくなっては俺の目を見なくなる。
何か隠しているのは一目瞭然だ。
どこからどこまでが本当でどこからが誤魔化しているのかわからない。
…待て。
そもそも、なんでコイツは抑制剤を携帯してないんだ。
今まで楠本と話した事を思い出す。
父親にもらったらしい避妊薬、家族から嫌われている事、兄からのレイプ、…手元にない抑制剤。
普通、抑制剤っていうのは医者から貰うものだ。
もし医者である父親がそれを拒んでいるのなら…?
もし避妊薬がレイプをする前提のものだとしたら?
「…皆木、……?」
「お前が持ってた避妊薬。アレは父親が兄弟のレイプを肯定してるって事か?」
「な、……んで、…」
「だとしたら、お前が抑制剤を持っていないのは医者である父親に処方してもらえてないから。…違うか。」
楠本は目を大きく見開いまま俺を見つめた。
何も言わずに、ただ大きな瞳が俺を見る。
"なんでわかったんだ"と言わんばかりに。
俺もその目から目線を外さずもう一度問いかける。
「違うか。」
「……違、う。肯定なんてしてない、父さんは…」
「父親が、どうした。言え。隠さずに全部言え。」
「…レイプする、なんて…疑ってすらない。」
楠本は両手で頭を抱えるとそう小さく吐き出した。
辛かったんだろう、苦しかったんだろう。
誰にも言えなかった苦しみが圧縮されて冷たい塊になって吐き出されていく。
俺が聞いてやらなかったら、誰にも言えないまま飲み込んでいたのだろうか。
「お前は家で…薬も貰えないまま、ずっと耐えてたんだな。」
「………、ん……、…」
「…楠本、もう一度聞く。」
震える楠本の頭を一度ポンと優しく撫でる。
そしてさっきとは違う、出来るだけやさしい声で
「明日は家に帰れそうか。」
とだけ問いかけた。
楠本は瞳を揺らしては、小さなちいさな声で
「…帰りたく、…ない、…」
とだけ呟いて俯いた。
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