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いつも通りに進んでいくSHRを聞き流していた。 ほとんど頭に入ってこない。 さっきの恐怖と、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになって吐き出しそうだ。 ふと視線を上げるとピタリと皆木と視線が合う。 数秒間目を合わせたままいると、皆木が少しだけ首を扉の方へ向けた。 …外に出ろってことか? そう思い俺が小さく頷くと皆木も同じように頷いた。 それとほぼ同時にSHRが終わる。 「それじゃ、しっかりやれよ。」 「はーい。」 皆木の言葉を合図に教室がざわめき出す。 一時間目の授業まではあと5分は休憩があるからだろう。 俺は誰かに声をかけられる前に席を立ち上がり、先にそそくさと教室を出て行った皆木の背中を追って外へ向かう。 廊下に出ると、すぐ横に皆木が立っていた。 「朝、平気だったか。」 「…まだ大丈夫。」 「いいか。学校ではあまり俺からは派手に助けてはやれない。一人に執着しない、そういう決まりだ。もしお前に限界がきたらお前から助けを求めろ。」 「わかった。」 「死ぬなよ。」 皆木はそう言って冗談めかして笑うと日誌で俺の頭をコツン、と叩いた。 文句でも言おうと顔を上げるけれど既に皆木は背を向けて向こうへ歩き出していた。 さっきの冷たい態度はそういう規則だったかららしい。 「…嫌われて、なかった。」 そう呟いて心臓がトクン、と鳴った。 何に安心してるんだ。 嫌われようが今更なんの代わりもないのに。 …あんな奴、どうでもいいはずなのに。 風に揺れる白衣を目で追いながら無意識に考えていた。 皆木には嫌われたくないと。

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