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「Ω……って、お前正気か。」 「え?もちろん。キミは違うの?」 奏斗は心底不思議そうな顔をすると首をかしげた。 まるで俺が何を言っているのか理解できない、というように。 「…楠本は生徒だろ。」 「そうだね。でも、その前にΩだよ。彼は学園唯一のΩ。」 「Ωである前に生徒だろ!?」 「だから生徒だって事はわかってるよ。何に必死になってるの?」 その言葉にハッとする。 俺がおかしいのか? 楠本があんな扱いをされる事に疑問を感じることが、不思議に思うことがおかしいのか? …Ωにも守られる権利はあるはずだ。 「キミ、そんなじゃなかったよね。他人が傷ついても死んでもどーでもいいってさ。彼だけ特別扱いでいいの?」 「…そういう訳じゃない。だが、アイツがされてる事も認識も異常だろ!?お前も俺にそう言って……」 「Ωなんだから仕方ないよ。それにボクが言ったのは…」 奏斗が心底面倒そうに話しながら髪を指先でくるくると巻く。 それから、ハァと一度ため息をついてはまるで当たり前の事だと疑わずに 「彼が問題になると面倒なことになるからさ。」 とだけ言うと同意を求めるように「キミは違うの?」と首をかしげた。 ここまでの現実を知りたくなかった。 この国で、この時代で。 Ωがここまでの扱いを受けているということを。 それが大切な幼なじみまで同じだということを。 「…奏斗。俺は、アイツを…ちゃんと助けてやりたい。」 「助ける?」 「レイプされるならされない環境にしたい、暴力も暴言もない学校に…それは不可能なことか?」 「……キミ、やっぱり本気なの?」 奏斗が真っ直ぐな目で俺を見つめた。 本気かどうか、今の俺にはわからない。 ただの担任の責任感からかもしれない。 もしかしたら本当にどこかで感情が芽生えているのかもしれない。 でも、アイツがこのまま生きていくのは望めない。 「今はまだわからない。」 「そっか。…キミがそこまで言うならボクも少しは手を貸すよ。それでいい?」 「あぁ。…ありがとう、奏斗。」 「ボクの親切は高いよ。」 ニッコリと笑う奏斗を見て少し安心する。 これで協力者が一人出来た。 少しでも楠本が安心して通える学校へ近づいたってことだ。 また トクン、と心臓が揺れる。 この感情にいつか 名前をつけられるのだろうか。

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