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ジクリとした痛みに目を開く。 その先に光は見えなかったけれど。 「…ん"、…っ…」 こうなってしまう前の記憶が思い出せない。 確か、移動教室での授業を終え教室へ戻ろうと廊下を歩いていたはずだ。 後ろから背中を押されよろめいて前に膝をついた瞬間、頭に鈍い痛みを感じてそこからの記憶が無い。 気を失ってしまったのだろうか。 だとすれば、今あるこの状況は…? 「……ぅ、……ん"──!!」 どうにか声を出そうと試みてみるが、口に押し込まれた布の塊のせいでそれは叶わない。 椅子にすわらされているらしいが両手足をその椅子に繋がれているためほとんど体も動かない。 おまけに目には布を当てられている。 ここがどこなのか、誰になんのために連れてこられたのかすらもわからず不安感に襲われる。 いつまでこのままで……? ドクンドクンと鼓動が早くなっていく。 また誰にも見つけられないままこうして閉じ込められて……… 「…いた、楠本クン!」 その声に俯いていた顔を上げる。 声の方へ顔を向けても顔も姿も見えないが、それは反射的なものだった。 それに姿が見えなくてもそれが誰なのかはすぐにわかる。 「ん"、ぅ……、!」 「もう大丈夫。すぐに解いてあげるから。」 そう言われた直後、すぐに目隠しの布を外され眩しい光に覆われる。 そしてその光がはけた後ぼんやりと時枝先生の顔が浮かんだ。 「怖かっただろう、もう平気さ。」 「……ん、っ…ありがとう、…ございます。」 続いて口の布も外され気持ち的にだいぶ開放される。 先生はわざとらしく明るく話しながら次々と拘束を外してくれる。 俺の気を紛らわせようとしてくれているのだろうか。 全ての拘束を外し終えるとその場にしゃがむと、俺とピッタリ目を合わせては眉を八の字にして笑った。 「怖かっただろう?」 「…少し。」 「助けに来るのが遅くなってごめんね。本当はこんな事が無いようキミを守ってあげたいんだけど…」 その先を言わないという事はそれは不可能なのだろう。 正直、こんな状況の中助けに来てくれただけでかなりありがたい事だが。 俺はその感情を口に出せず、ただ首を左右に振った。 「キミは謙虚だね。少しは悲観的になってもいあんじゃない?」 「…いや。仕方ないってわかってるから。」 「仕方なくなんて無いさ。ボクが出来る限りキミを守ってあげる。…ね?」 そう言って優しく笑うと小指を差し出される。 …指切り、だろうか。 俺はしばらくその指をただ見つめていたけれど下がらない辺りからして俺の小指を待っているだろうと判断し同じように指を差し出した。 「約束する。ボクがキミを守るよ。」 「……そんな、…」 「だからキミも最初にボクを呼んでね。きっとキミの力になるから。」 そう言って小指と小指が繋がる。 嬉しいはずなのに、その言葉は優しいはずなのに。 何故か頭の中に浮かんだのは皆瀬の姿だった。

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