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連れてかれるのはどうせ保健室だろう、とぼーっと先生の後ろをついて歩いていた。 頭も痛くて体も重い。 出来れば早く眠ってしまいたかった。 けれど着いたのは保健室ではなく国語教官室だった。 「どうぞ、ボクしか入らないから安全だよ。」 「…保健室じゃ…?」 「あそこが良かった?保健室だとほかの生徒も来るし優もいるからね、安心して休めないと思って。」 そう言われると有無を言わさずに中へ手を引かれる。 断る理由はないからとそのまま踏み込むとそこは想像とはかけ離れた場所だった。 左右に本棚があり、奥には大きなベッドソファがあり上に小さな窓とカーテンがついていた。 なんというか落ち着く小部屋、という表現が一番合う場所だ。 「教官室は実質自由にしていい場所なんだ。堅苦しいのは良くないでしょ?」 「…確かに落ち着くけど。」 「そう言ってもらえてよかった。どうぞ座って?飲み物は何がいい?甘いものなら色々あるけど…」 そう言ってガサガサと戸棚を漁る先生に俺は無意識のうちに 「はちみつレモン。」 と答えていた。 正直、そんなに飲みたいわけじゃなかった。 けれど頭に浮かんだ飲み物はそれしか無かったらしい。 先生はくるりと振り向いては少し目を細めて俺を見下ろした。 少し怖い。 もしかして癇に障るような事を言っただろうか。 取り繕うと考えていると、すぐに笑顔になっては眉を下げた。 「はちみつレモン美味しいよね。でも、今ここに材料が無くて…ココアとか珈琲、抹茶ラテにミルクセーキとかそういうのならあるんだけど。」 「…あ、…ごめんなさい。それならココアで。」 「うん。すぐ出来るから待っててね。」 一瞬見せたあの顔は何なんだろう。 笑顔で鼻歌を歌いながらココア作る先生にさっきまでの面影はまるでない。 …目の錯覚? そんなはずは無いのだけど、そうだと自分に言い聞かせさっきのは無かったことにした。

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