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おかしい。 一日の授業を終え、SHRのために教室へ戻ってきたがどこにも楠本の姿がない。 机の横にカバンはかかったままで特に教室が荒れているわけでもない。 「おい、誰か楠本がどこにいるか知ってるか?」 「さー?帰ったんじゃね?」 「本当に誰も知らないんだな。」 「知らないって。早く帰ろーよ。」 生徒達に聞いても帰ってくるのはそんな返事だけだ。 この様子だと本当に知らないらしい。 それなら楠本はどこに行った? …まさか、逃げ出した? 「…わかった、SHRを始める。」 それならまだ学園内にいるはずだ。 逃げ出したにしてもアイツが逃げる先は何処にもないだろう。 行く宛もなくどこかにいる可能性もある。 学園内にいるか、…それか来るなら保険室だ。 急ぎ足でSHRを終わらせ早々と教室を出る。 何から逃げ出したのか知らないが、アイツを一人にしておくのは危険だ。 …もしかすると他学年や他クラスの奴に襲われているかもしれない。 教室を出て保険室へ向かいながら奏斗へ電話をかける。 探すのを手伝ってくれるかもしれない。 早足で歩いているとすぐに電話が繋がる。 『なぁに?』 「楠本がいなくなった。おまえも一緒に探してくれないか?」 『…彼ならそこにいるよ。』 「そこに…って、お前の近くにいるってことか?」 『うん。』 想像していた答えからかけ離れすぎて思わず足を止める。 どこかへ逃げ出したわけでも誰かに襲われたわけでもなく、奏斗の所にいる…? 「なんでそこにいるんだ。」 『さぁ。彼からボクの所に来たのさ、ボクは少し彼に好かれてるみたい。心配しなくてもいいよ。今は少し疲れてるみたいだから休んでもらってるけどね。』 「……そうか。何か言っていたか?」 『特に。ココアが好きってことくらいしかね。』 携帯を持つ手から力が抜ける。 そばに居るなら俺より優しい奏斗の方が確かにいいかもしれない。 俺はただ携帯の向こうへ 「わかった、楠本を頼んだ。」 とだけ言うと返事を待たずに電話を切る。 少し頼られているかもしれない、というのはとんだ勘違いだったらしい。 「…恥ずかしいやつだ。」 自分をそう蔑んではため息を一つつき、何事も無かったかのように歩き出した。

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