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冷たい夢を見た。 心拍数が徐々に落ちていく夢を。 そのまま命が途切れれば二度と目覚めなかったのだろうか。 「起きた?」 まぶたを開いたのと同時に満面の笑みが視界に映る。 それが誰でどうしてここにいるのかわからずしばらくぼーっとしていると、少しずつ眠ってしまう前のことを思い出す。 それから目の前の人が先生でここが知らない場所だという事に気づいた。 「…どこ、…ここ……」 「ボクの家だよ。随分疲れてるみたいだったから連れてきたんだ。勝手にごめんね?」 「な、……え、……?」 思わず間抜けな声を出しては飛び起きてあちこち見渡す。 ワンルームマンションらしいその部屋は男の一人暮らしにしては殺風景すぎる家具の配置だ。 白い壁にシンプルなフローリング。 あるのはベッドと机くらい。 なんてようやく冷静になって見ていると先生がじっと俺の顔を見つめてくる。 「なに…」 「元気そうで安心した!なーんかずっと変な顔だったからね。ご飯は食べる?お風呂は?」 「…いや、もう帰る。迷惑かけられないし…連れてきてくれてありがとう。」 「えぇどうして?キミ帰るところあるの?」 「それ、…は……」 その言葉にドキリとする。 無い、けど。 これ以上先生に迷惑をかけたくはない。 それにここで甘えてしまってはずっと甘えてしまうような気もする。 「無いんでしょ?大人に甘えていいの。すぐに復帰、なんてきっと無理だよ。」 「でも、……」 「いいからいいから。今日は金曜日だし明日帰ればいいよ。それに先生一人暮らしは少し寂しいんだ。ボクを助けると思って。ね?」 「…わかった。でも、本当に迷惑にならない?」 「ならないならない。」 不安で尋ねると、先生は嬉しそうに笑った。 どうやらここにいても本当に迷惑にならないらしい。 それなら外は暗いらしいしほんの1日だけ甘えさせてもらおう。 …あぁ、余計に帰りづらくなってしまうけれど。 「キミの事を聞きながらのんびりご飯を食べよう。ね。」 「ん。」 先生の言葉に素直に頷く。 あれこれなれない事の連続で頭がおかしくなりそうだ。 その中で先生と話すのはほんの少しだけ楽な気がした。

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