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先生は紺色のエプロンを付けると長い髪を高いいちで結びピンで留めた。
前から見ると短髪に見えないこともない。
俺は促されるまま台所の向かいに座ると、カウンター越しに先生を見上げる。
「キミが眠ってる間にカレー作ってたんだ。好き?」
「好き。」
「よかった。カレーを嫌いな人はいないからね。あと少しで出来るからそこで待ってて。」
「わかった。」
そう言うと慣れた手つきで鍋をかき混ぜる。
台所には調味料が揃っているし、先生は皆木と違って家庭的らしい。
そういえば学園のほとんどはαで占められているけれど先生はαなんだろうか。
「先生はαなのか?」
「そうだよ。どうして?」
「…いや、なんとなく。αっぽくないなと思って。」
「えぇそうかな。こう見えても頭はいいし家柄だってちゃんとしてるんだよ。そう見えないってよく言われるけどね。」
「家柄?」
ほかの人と同じで俺も少し疑っているところがあった。
思わず聞き返すと先生はクスクスと笑っては両手を合わせて首を傾げた。
「ボクの家は由緒正しいお寺なんだ。日本でも有数のね。」
「…全然見えない。」
「あははそうだろうね。」
そう言うとまたお玉をクルクルとかき混ぜては小皿に一口だけ注ぐと口をつける。
こうしてじっと見て初めて気付いたけれど随分綺麗な顔をしているらしい。
普段の明るい様子からは離れるが"美人"という言葉が似合うかもしれない。
「ん、これでいいかな。楠本クンはお腹すいてる?」
「空いてる。」
「それじゃあ山盛りにしてあげよう!ボクも今日はちょっとお腹すいちゃったなぁ…」
ふんふんと鼻歌を歌いお皿に盛りながら先生は嬉しそうに笑う。
それから俺を見下ろすと心底幸せそうに話し出す。
「誰かとこうやってご飯を食べるのも、ボクの手料理を食べてもらうのもすごく久しぶりなんだ。」
「一人暮らしが長いから?」
「まぁそうだね。実家にいる時も親はなんか宗教じみてたしボクとは合わなかったんだ。だからキミと一緒に食べられてホンットに嬉しいよ!」
そんな嬉しそうな様子に俺はただ世話になっているだけなのに少し嬉しくなってしまう。
この人はきっと優しい人なんだろうと会話や動作の節々からそう感じていた。
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