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目が覚めた時。 隣で眠る知らない背中が怖くて仕方なかった。 おかしなくらい冷たいフローリングに足を置いて逃げ出すように荷物だけを持ち知らないマンションの一室を飛び出す。 後から思えば恩知らずで、なんて頭の悪い行動だったんだろうと思う。 あれだけ物音を立てれば誰だって目が覚めておかしくないのだから。 * 隣が空になった布団の中で伸びをする。 ベッドサイドにある時計の針はまだ五時前を指していて空も夜のまま。 あぁ、こんな時間に出てくなんてバカだなぁ。 「…鞄の中の薬無くなってるの、気付いてるのかな。」 寝返りを打ちながら小さく呟いてみる。 それにしてもどこまでも考えの甘いΩだ。 あれくらいならきっとすぐになんとか出来てしまうだろう。 ベッドから抜け出してリビングへと向かうと、よっぽど慌ててたのか椅子がひとつ倒れたまま放置されていた。 「逃げなくても引き止めたりしないのに。」 いや、嘘かもしれない。 きっとボクは何か言って帰したりしなかっただろうな。 椅子を直して台所へ向かい、コップへ水道水を入れ流し込む。 静かな休日の早朝はなんだか頭をおかしくするみたい。 空になったコップが手から滑り落ち流しに落ちたかと思うと四方八方へ砕け散る。 飛び散ったガラスを見ながらボクはなんとなく 「わぁ、大変だ。」 なんて呟いて笑ってみた。 自分が思っているより、逃した獲物へ執着心があったらしい。 なんだか調子が悪い。 「…あぁもう。…邪魔だな。」 突然現れて何もかもかき乱すなんて。 許せないなぁ。

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