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ガラクタ。

いつもより少し念入りに保健室の掃除をして、それから白衣の裾を下ろし戸棚を覗き込む。 少し隙間を開けてからカバンに入れてあったココアの瓶をそこへ置き、今日何度目かわからないため息をついた。 『ココアが好きってことくらいしかね。』 そんな一言に真剣になってわざわざ買いに行く、なんて馬鹿みたいだ。 戸棚を閉め椅子に座ると見計らったかのように備え置きの電話が鳴る。 この音は内線だ。 「はい、保健室です。」 『皆木先生おはようございます。近所の方から怪我をした生徒を見つけた、と電話があるのですが繋いで大丈夫ですか?』 「えぇ。」 そう言いながら片手でメモを取るための紙とペンを用意する。 こういう電話が来るのは珍しい。 無い方がいいものだがゼロなわけではない。 そう思っているのプツリと音がなり知らない女の声に変わる。 「南浦高校、保健室です。」 『あぁどうも。今朝、ゴミ出しに来たらゴミ置き場に御宅の生徒さんがいて。救急車を呼ぶべきか悩んでるんですけど…』 「ゴミ置き場に?すみません、怪我の状態を教えてもらえますか?あと荷物やポケットなどに学生証はないですかね。うちの生徒なら皆携帯してるはずなんですが。」 『ちょっと待ってくださいね。…あの、言い難いんですけどレイプですかね、これ。あとは顔が大腫れてて…服も下半身何も着てなかったのでとりあえずタオルかけてるんですけど見た方がいいですか?』 「レ、………」 思わず言葉を失いペンを落す。 いや、そうと決まったわけじゃない。 不謹慎だが今日ばかりは知らない誰かが被害者であることを願ってしまう。 そんな。 アイツばかり被害者になる必要は無いからだ。 何も返答しないままでいると電話の向こうからまた女の声が聞こえてきた。 『学生証無いですよ。鞄の中も特に…携帯とかも無いですし盗られちゃったんですかね。』 「……そう、ですか。あの。その生徒少し茶髪気味で小柄な男子生徒だったりしますか?」 『言われてみてればそうかもしれません。』 「あの。失礼ですが一つ確認をお願いします。その子、中に出されてますか?」 もう少し柔らかい聞き方があるだろう、と自分で思いながらも精神状態は普通じゃなかった。 立ち上がり机の脇にある救急セットを指に引っ掛け机にあげる。 一刻も早く向かわなければならない。 『えぇ……あ、…そう、ですね。』 「すぐに向かいます。場所を教えてください。」 女の言いにくそうな話し方に全てを察した。 薬瓶の中から避妊薬を取りポケットへ入れるとすぐに出られる状態まで準備をする。 場所はここからあまり遠くないらしい。 車で行けば5分もかからないだろう。 まだ始まってすらない月曜日の学校を飛び出し駐車場へ向かう。 世界はどうしてこんなにも優しくないのだろうか。

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