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指定されたゴミ置き場は住宅街から少し外れたところで人通りが少ないことだけが救いだった。 車を近づけると通報者らしき女がこっちを見ては様子を伺っている。 俺は車を止めてシートベルトを外すとすぐに降りては女に頭を下げた。 「貴方が電話をくれた方ですか。」 「…えぇ。」 「どうも、ありがとうございます。後は僕が面倒見ますので。」 「わかりました。」 女はそう言ったがそこからは動かなかった。 仕方なくそのままゴミ置き場へ目をやると、地面には生ゴミの入った袋と一緒に一人の青年が横たわっていた。 まるで死体みたいだ。 下半身にはタオルがかけられ目は閉じられたまま開かない。 全身脱力したまま動かず、引き裂かれたシャツの間からは赤く鬱血した肌が覗いていた。 そしてその顔は傷だらけで腫れ上がっているが確かに楠本だった。 ズキリと胸の奥が痛み、後悔に襲われる。 「楠本、聞こえるか。」 肩を揺らしながらそう問いかけるが返事はない。 体へ触れてみるが、かなり体温が低い。 まだ夜は冷えるこの季節に外に放置されていたらそれも無理は無いだろう。 着ていた白衣を身体へかけ、もう一度体を揺らす。 「楠本。聞こえるか。」 反応は無い。 仕方なくその体を抱き上げゆっくりと立ち上がる。 このまま学校へ連れていき保健室で休ませよう。 そして、目が覚めるまで離れないでいよう。 車の後部座席へその体をゆっくりと寝かせ、持ってきていた毛布を体へかけてやる。 俺も続けて車へ乗り込もうとすると、女が一歩前へ出て俺を見上げた。 「あの、…」 「何かありました?」 「待っている間、一度目を覚ましたんですが…大丈夫?って聞いたら…なんか、……何と言うんでしょう…」 そこまで言うと女は首をかしげて黙り込んでしまう。 一度目を覚ました? 重要なことだ、出来ることならきちんと聞いておきたい。 「わかる範囲でいいので教えてください。何か言ってましたか?」 「いえ…こう、目を見開いて…すぐ両手を、顔の前に出したんですけど。…うまく聞き取れなかったんですが『もう嫌だ、ミナキ、どこに居るんだ』みたいな事を。」 「…そう、言ったんですか?」 「はい。確かそんな感じで。」 その言葉にゆっくりと車を振り返る。 どうして求めるんだ。 トクン、と心臓がまた揺れた。 目が覚めればコイツはまた何も言わなくなってしまうだろう。 恐怖の中できっと溺れてしまっているだろう。 「どうも、ありがとうございました。それでは。」 強引に女と別れ車へ乗り込む。 後部座席を振り向いてはまだ戻らない意識の中で苦しそうに眉間にシワを寄せる楠本へ手を伸ばした。 「このままでイイ訳ないよな。」 アクセルを踏んで車を走らせる。 何もかも洗い流して、その身体を抱きしめたい。 許されるのならどこまでも。

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