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カチカチと音を立てて進む時計を見つめる。
時計の針は12時を指そうとしている。
楠本はまだ眠ったまま目が覚めない。
「この方が楽ならずっと眠っていればいい。」
そうすれば誰かに好きに弄ばれることも、痛みを知ることも無いのだから。
校外でこういう目にあうとは思っていなかった。
少なくとも今は発情期ではない。
それなら、こうして狙われる心配も無いからだ。
なぜ狙われた?
狙われやすい時間に、狙われやすい環境に、狙われやすい状態で居たから。
だとしたら…奏斗の元を離れた後コイツは何をしてたんだ。
帰れずにそこら中をさ迷っていたのか?
手を伸ばし楠本の目にかかった前髪を横へ避けてやる。
けれど、傷だらけであちこちガーゼだらけの顔はあまりにも痛々しくその髪をすぐに元の場所へと戻す。
と、指先が触れたのと同時にピクリと瞼が動いた。
「……!楠本、…目が覚めたか?」
「ん、…………ぅ………」
そう言って声が漏れる。
ゆっくりとその瞼が開かれると真っ黒でまるで光のないようなそんな瞳が顔を覗かせた。
それから目だけで左右を見ると俺を見上げては何度か瞬きをした。
「……嘘つきだ。」
ただ、それだけを呟くとまた目を閉じてしまう。
呆気に取られていると、どこかが痛むのか眉間に深い皺がより喉の奥で唸るような声が上がった。
「ぅ"、………っ」
「どこか痛むか?」
「…あちこち、痛い。特に…頭、後ろ。」
「怪我してたからな。体起こした方が楽か?」
「多分。」
「わかった。補助するからゆっくり起こせ。どこか痛んだら言えよ。」
そう言うと楠本は1度頷きまたゆっくりと瞼を開く。
前から抱きしめるような体型になり、ゆっくりとその体を起こす。
俺の腕の中で楠本はただ小さく息を吐いて、時々、嗚咽にしたような声を漏らくだけだった。
「どうだ。」
「こっちのが楽。」
「よかった。身体の具合はどうだ?傷は痛むだろうが、それ以外で。」
「気持ち悪い。死ぬほど吐きそう。」
「死ぬよりかはまだマシだろ。」
何気なくそう言うと、楠本は冷たい目で俺を見た。
それから小さな声で「どうだろ。」なんて言うと目を閉じて動かなくなってしまう。
どうした、と声をかけようとしたがそれが吐き気を耐えているんだと気付いて尋ねるのはやめた。
「聞きたいことがある。平気か?」
「……容赦ないな、ホント。」
「保険医としてじゃなくて。俺が聞きたいことだ、駄目か?」
「少しなら。」
目を開かないままそう言う姿はまるで壊れたガラクタの様だった。
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