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しょげた顔をしてベッドに腰かける楠本へ、出来るだけ優しく声をかける。
「どの体制が一番安心できる?」
「…見えないよりは見える方がいいかもしれない。」
「何がだ?尻がか?」
「あと、…顔とか?」
とかってなんだよ、と思いながら体制を考える。
俺の顔が見えるように俺が尻に触る体制なんてあるか?
…痛くないように、怖くないようにっていうのは案外面倒だ。
「そうだな…もう少し真ん中に座って、こう…足立てろ。」
「こうか?」
「あぁ。そのまままっすぐ向いとけ。」
俺の指示通りに楠本はそのまま前を向いて頷いた。
言えば、体育座りで足を少し開いたような体制だ。
これなら俺の顔は見えるしあまり恐怖感もないだろう。
「ズボンずらすぞ。」
「ん…」
椅子に座り、向かい合うようになるとゴム手袋越しに薬を中指へつける。
楠本は足を掴んで座っていたがすぐにフラフラと揺れ始めた。
「…倒れそう、…」
「俺の肩掴んどけ。」
「わかった。」
「痛かったら言えよ。」
「ぅ、……ん。」
そう言うと楠本の手に力が入り、思っていたよりも体が引き寄せられる。
傍から見たらおかしな体制だ。
さっさと終わらせようと、でも痛みを感じさせないようにと。
指をゆっくりとゆっくりと奥へ押し込んでいく。
「………っ、……」
「…痛むか?」
「なんでも、ない…」
中指がちょうど根元まで入ったあたりで楠本の体が一瞬揺れた気がした。
奥の方が傷がついてるんだろうか。
あまり傷口を刺激しないよう、中に入れている指をゆっくりと一周させる。
「、……っ、待…、って…」
「やっぱり痛むか。もう少し奥まで塗らないといけないんだが…耐えられるか?」
「……痛くてもいいから、早く…終わらせて。」
「…わかった。ダメそうなら言えよ。」
「ん、……」
じわじわと長時間痛いより短時間の痛みの方がいいんだろう。
苦痛を与えるのは気が引けるが、仕方なく中に入れてきた指を上へ向けグイッと少し奥へ押し込む。
と、その瞬間に視界の端に見える楠本の足の指がジャンケンのグーみたいに丸まった。
それと同時に俺の肩を掴んでいた手の力が強まる。
「おい、やっぱり………」
「…ぃ、…いい、から…っ…」
「……後で怒るなよ。」
そう断り指で中の壁を撫でるように塗り込んでいく。
早くしろとは言われたがあまり手荒な真似はしたくない。
行為を進めるにつれ、だんだんと力がこもる楠本の手はとうとう半分抱きつかれるような体制になってしまう。
これじゃ手元が良く見えない。
声をかけようと顔を上げると、楠本の顔は真下を向いてまるでこの体制の意味をなしてなかった。
「楠本、顔上げろよ。意味無いだろ。」
「…ぅ……、ん……、…っ…」
「な、……お前なんて顔して……っ…」
ゆっくりと上がったその顔は、口は唇を噛んでいるらしいがほぼ意味がないほど緩みきり、目はぼんやりとして潤んでいた。
そこでようやく気付く。
楠本の「待って」や「早くして」は痛みからじゃなかったって事に。
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