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「楠本、……とりあえず、抜くぞ。」 「ぅ……っ…」 中から指をそっと引き抜き力を抜く。 少しからかってやるべきか。 それとも、生理現象だから仕方ないと諭すべきか。 いや、俺のやり方が悪かったのかもしれないと謝るべきだろうか。 次にかける言葉が見つからずにそのまま黙り込むと楠本はポフンと顔を俺の肩に埋めては弱々しく呟いた。 「俺、…この身体が嫌いだ。」 「…どうしてだ。」 「痛いだけの方がいい。時々、嫌なのに感じる時がある。…嫌なのに求める時がある。そんなつもり無いのに、…自分の体のクセに……っ…」 「お前に限った事じゃない。」 「……俺だけだって、みんな揃って言ってた。」 いつもの威勢のいい楠本はここにはいなかった。 傷つき過ぎたのか、それとも疲れ果てたのか。 もう手の力はほとんど無く俺に体重を預けているような形だ。 俺はゴム手袋を外し、抱きしめるようにその頭を撫でる。 「そんなに自分を嫌ってやるな。」 「俺、…快感もセックスも、そんなの何も無い世界に生まれたかった。殴られるよりも、蹴られるよりもずっと痛い。」 「……それは、痛みを感じる事しかしてないからだ。いつかきっとそれを"幸せ"だと思える相手に出会える。」 なんて、根拠の無い嘘で誤魔化した。 腕の中の楠本はきっと泣いていた。 声もあげずにただ静かに泣いていた。 泣き顔も、涙も、誰にも見せずに。 トクン、と心臓が揺れる。 腕の中の誰かも同じように揺れた。 抱きしめる手に少し力が篭って、ソレは小さく声を漏らした。 「いつかって、いつだよ。」 「…遠くない未来だ。だから今は負けるなよ。いいな。」 「だから……大人は嫌いだ。」 小さな体を優しく抱きしめる。 壊れて、バラバラになった破片を拾い集めるように。 少しずつ少しずつ幸せになればいい。 その隣にいるのは、俺じゃなかったとしても。 「…Ωになんて…なりたく、なかったのに。」 「あぁ。」 「Ωじゃなきゃ………」 楠本はそこまで言って黙り込んでしまう。 じゃなきゃなんなんだ、と聞くとただ首を振るだけだった。 お前がΩじゃなきゃ 出会うことも、触れることも、傷つく事も無かったんだぞと。 言おうとして、ただその体を抱きしめた。 今はまだこのままでいい。

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