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ふわりと一度あくびをする姿を見て、時計を見上げる。 目覚めてから2時間近く経っていた。 金曜日の下校後、どんなふうに過ごしていたかは知らないがあまり眠れてはなかっただろう。 「学校が終わるまで寝ておくか?」 「…ん、……眠い。」 「だろうな。起こしてやるから。」 そう言うと楠本は素直に頷き、いつもと同じベッドへ横になる。 布団を頭までかぶり一度丸くなるがすぐにヒョコリと顔を出しては俺を見つめてくる。 「どうした?」 「…授業は?」 「今日は無しにした。」 「俺が寝てる間、どこかに行くか?」 「行くかもしれない。…行く時は鍵を閉めておく。ここの鍵は俺しか持っていない。」 「ん……わかった。」 そう言うと同じように布団を被って、もう顔を覗かす事は無かった。 きっと、誰かに訪ねられたり一人になるのが嫌だったんだろう。 そう素直には言わないが。 俺は二人分のカップを洗い、暫くは何をする訳でもなく何となく薬の補給や生徒名簿を見ていたがふと、さっきの会話を思い出した。 『好きでΩになったんじゃない。』 普通、Ωに生まれたんじゃないという方が自然じゃないか。 Ωになる。 まるでΩでは無かったような言い方だ。 「……生徒表に書いてあるか。」 楠本がよく眠っているのを確認し、静かに保健室を出ていく。 もちろん鍵を閉めたのを確認してから。 書庫に向かい特進コースの棚から"楠本 皐月"と書かれたファイルを手に取る。 一番上にあるのは三年生のデータだ。 名前と不機嫌そうな顔写真の横にはきちんとΩの印がある。 いくつかのページをめくり、二年生のデータへ目を向ける。 同じ名前と、相変わらず不機嫌そうな顔の横にはきちんとαの印が 「……、α……!?」 …どういう事だ? 記録違いか、と慌てて1年生の頃のデータを開くがそこにも同じようにαの印があった。 何故だ。 「途中から、Ωに…なった……?」 世間的に、いや一般的に。 Ωはαやβに比べて生まれつきの能力が劣っているとされている。 それは知識や運動、体型なんかにも関わってくる。 楠本は確かに小柄だが頭は同じ歳の中ではトップで運動神経だって悪いものでは無い。 珍しいタイプもいるもんだ、なんて思っていた。 これがデータのミスでなく、事実なら。 楠本に 一体どんな過去があるんだ。

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