「別に、あんただって俺のなにかじゃないくせに。」 床に座り込んだままいう言葉は正しいだろう。 俺はコイツのなんなんだ。 弱いところを少し知っているだけで不本意な事なんだろう。 「…こんなの、別にどうだっていい。終わった事だし。どうでもいいはずなのに、…なのに、気持ち悪くて怖くなるんだよ。 なんでだよ。俺、こんなに弱い訳無いのに。」 「楠本、いいか。よく聞けよ。」 楠本の顔に手を添え、ゆっくりと俯いた顔を上げさせる。 そして、歪んだ顔で俺を見る目へ目を合わせる。 「どうでも良くないんだ。異常な事なんだろ。痛い思いをした、苦しい思いをした。それで傷ついた。…隠すことじゃない、泣いて喚いていいような事だ。」 「俺はそんなので泣いたりしない。こんなので、弱音を吐くような人間じゃない…！！」 「泣けないのと、言えないのとそれを一緒にするな。弱音を吐けない所で生きてきただけなんだろ？」 「っ、…わかったような口をきくな…！！」 手を弾かれ、思い切り胸を押される。 よろけて後ろへ手をつくとフラフラと楠本が上へ乗り上げてくる。 俺よりも小さな手のひらが首へ触れると徐々に息が吸えなくなっていく。 「俺は…！！お前なんかに守られないと生きてけない人間じゃない！一人で生きれる、頼らないで生きれる！…なんでだよ、なんで… こんなはずじゃ、なかったのに……っ、」 息ができない。 楠本が目を腫らして叫んでいるのに、声をかけてやることも出来ない。 ここで死んでしまったらコイツは誰にも守られないまま生きていくのか。 それは、嫌だな。 「…Ωだからなんだよ、…なんで、こんなに弱いまま生きてなきゃなんないんだよ…っ…弱いモノ扱いすんな、…俺は、俺…は、っ……」 酸素が薄くて意識が朦朧として来る中、震える手を伸ばす。 傷んだ髪を撫でてもう開く力もない瞼を閉じた。 徐々に首を絞める力が弱まっていく。 「……弱い、なんて思ってない。」 「じゃあ、なんで…っ…」 「楠本。」 弱い力で体を抱きしめる。 胸の上で小刻みに震えているのを確かに感じたんだ。 弱いんじゃない。 強がりすぎてるだけなんだ。 「傷ついた所だけ…治せばいい。」 「傷、……？」 「傷がついて怪我をしたまま放っておいたから、…また痛むんだ。…治ればお前はまた元に戻る。」 「…お前は今も昔も弱くなんてない。傷口が痛むだけなんだよな。」 傷ついて、膿が出て 塞がらないうちにまた開いて 血が出て 止まらなくて 止まらないまま また 何度も繰り返して それじゃずっと 痛いままだもんな 「ごめん、…っごめ、ん……ただの、八つ当たりなのに、…っ…」 「…俺が治してやる。だから、もう離れるなよ。」 華奢な体を抱きしめた。 楠本の手が、俺の腕を弱々しく抱き返していた。 あぁ 随分遠回りをした。 楠本がまた、人間らしく生きられるように 俺は手を離さないでいよう。