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優しい何かに包まれる。
ここはどこだろう。
わからないけれど、なんとなく
生きてるなぁ
なんて思わせる 優しさを感じた。
「……すみません、よろしくお願いします。」
夢の中にそんな声が聞こえて、うっすらと目を開く。
見慣れない部屋だ。
周りを見回すが、何かがおかしい。
顔のすぐ横に誰かの頭があってついでに体の自由が聞かない。
…抱きしめられてる?
「ぅ"、……い、って……」
「悪い、起こしたか?」
「……気持ち悪、なにこれ……っ、痛、…え、なに…!?」
「おい、馬鹿か急に暴れるな…!」
口の中が苦い。
そのうえ口の周りになにかがこびり付いていて周りが臭う。
体の上にいる誰かを無視して飛び起きると、人相の悪いソレがボサボサの頭を掻きながら俺を睨みつけた。
「…皆木、……」
「体、変なとこはないか。」
「変……口の中がまずいのと、体中が痛い…のと、今の状況…?」
「吐いてそのまま寝たからな。あとは変な体勢で寝てたからだろ、俺も腰が痛い。…今は怖くないか。」
「怖、……」
その言葉で昨日のことを思い出す。
騒ぎ疲れてそのまま寝てしまったんだろう。
『朝まで、…このまま、でい…、て…っ…』
『約束する。絶対だ。』
…本当に朝までこのままでいてくれたのか。
酷い迷惑をかけてしまった。
汚い所を見せたし、汚い事を伝えた。
愛想をつかされたっておかしくないはずなのに。
「…怖くない。」
「それならよかった。」
皆木はそう言うと何故か嬉しそうに笑った。
吐いた直後に抱きしめたせいか、皆木の服も体も汚れてしまっている。
…どこまでも迷惑にしかなってない。
「とりあえず風呂入るだろ。」
「ん。」
「出たら腹が減るまでなんでも好きなことしとけ。」
「…学校は?」
もう何もかも残ってないけれど、唯一それだけが形作っているものだった。
それに、皆木は仕事がある。
その間ここにいる訳にはいかない。
なんて、ぐるぐる考えていると皆木は立ち上がりながら俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回しては
「今日は2人でズル休みだ。」
と、心底楽しそうに笑って俺を見下ろした。
1人じゃない、俺だけじゃないって
それだけの言葉でどんなに俺は救われたんだろう。
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