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「電気消すぞ。」
その言葉に返事はない。
…まさかもう眠ったのか。
もしそうなら起こさない方がいいだろう、と黙って電気を消す。
俺も今日のところは早めに寝よう。
目を閉じ、何も考えないようにする。
するとトクン、トクンと心臓の音が聞こえてくる。
ただ隣いるだけでこんな風になるのはきっと運命とやらのせいだろう。
「皆木。」
ウトウトと意識が遠のき、もう眠れそうだと言う時にそんな声が背中側から聞こえてきた。
眠気の中で瞼が上がらない。
…何か、…緊急的な事では無い…ようだけど。
「…昨日、言おうとしたの。…寝てたら聞かなくていいんだけど。」
微かに聞こえてくる。
布団を口までかぶっているのかボソボソと聞こえにくい声だ。
ほとんと眠った状態でぼんやりとその声を聞いていた。
「母親を見てて、…あの時は別に何も思わなかった。でも…今は、…俺も一生あんな扱いをされて死んでくんだろうなって。…思うんだ。」
そんな、誰にも届かない弱音が
「Ωだから。…あんたに守られても、…どうせ、良い生き方はもう出来ないって…最近、気付いた。」
そこでハッ、と目が覚める。
なんのために隣に寝てるんだ。
俺はコイツにこんな思いをさせないためにここにいるんじゃないのか?
「…楠本、こっち向け。」
「……起きてたのかよ。」
「今起きた。」
楠本の背中へそう言うと、もぞもぞと顔がこっちを向く。
暗闇の中で小さな月明かりだけが俺たちを照らしていた。
俺は小さくなった体を片手で抱き寄せ耳元で囁いた。
「…もし、お前がこんな世界が怖くなったら俺を選べばいい。守ってやる。命をかけて、何からでもだ。」
「なに、それ……」
「俺を逃げ道にすればいい。だから、もう必要以上に悩むなよ。」
俺以外の正しい道があって。
それはきっと、大学へ行くことだとか真っ当に就職することだとか、何処かの優しい誰かと結ばれることだとか。
そんないろんな道だ。
でもそんな中でもし苦しくて逃げ出したくなったら、その時に俺を選べばいい。
「……あんたは、思ってたよりも優しいな。」
「お前がそう錯覚してるだけだ。」
お前がいつでも来れるように道は開けておくから。
だから、迷子になっても一人で蹲るなよ。
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