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なにか嫌な記憶がちらつく。 『金が欲しいなら自分の臓器でも売れば?』 あぁ、くそ。 夢くらいまともに見れないのか。 胸糞悪く目が覚める。 まだ目覚ましは鳴ってないらしい。 窓の外はすっかり朝だから鳴るのも時間の問題だろう。 楠本を起こさないようゆっくりと体を起こし、ベッドヘッドに置いてある携帯へ手を伸ばす。 予想通り、目覚ましの10分前らしい。 早めに身支度をしてから起こそう、と隣に目をやって息が止まる。 「…な、………」 隣はもぬけの殻でどこにもアイツの姿は無い。 …なんでいつもコイツは何も言わずにいなくなるんだ。 ベッドから飛び出し廊下へ出る。 トイレ、風呂場、前寝かせていた寝室を回るが姿は見えない。 「おい、楠本!」 そう一言呼びかけ、リビングの戸を開く。 ソファにもテーブルセットにもアイツはいない。 一体どこに行った? 玄関に靴があるかどうか見に行こうと振り向いた時、視界の端に見慣れた茶髪が見えた。 「……何、そんなに慌てて…?」 「お前、…!こんな所で何してんだよ!」 「…え。いや…喉乾いたから水貰いに来ただけ。…寝てたから声かけるにかけれないし…」 「……水?」 キョトンとする楠本を見て冷静になる。 手にはガラスのコップ。 今まさに口を付けようとしていたところらしい。 …どこかに行った、なんていうのは俺の早とちりだったって事だ。 「…はぁ、……心配して損した。」 「…ごめん。」 「いや、いい。好きなだけ飲んでろ。」 なんだか力が抜ける。 そのままテーブルセットの椅子に座り、ため息をついては好き勝手はねる髪を手で押さえ込んで机に突っ伏する。 「また、…迷惑かけた?」 「迷惑じゃない。ただ心配しただけだ。」 「……なんかごめん。」 「なんでもかんでも謝るなよ。今日はよく寝れたか?」 「ん。」 「それなら良かった。ふぅ……飯食って学校行くぞ。」 机から体を起こし、楠本へそう言い放つ。 これは非日常でいつもとは違う朝で。 そんな非日常の1日目だからこんな風にほんの少しずれ込んでしまったんだろう。 コップを口から離し、コクンと頷く楠本の姿に心底安心しているのはこれが昨日よりは日常に近いからだろう。 それはなんて、贅沢な事なんだろう。

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