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朝食を食べ終え、空になった食器を流しへ運んでいるとさっき「待ってろ」とだけ言い残して席を立った皆木が埃のかぶった段ボールを持って戻ってくる。
「…なにそれ。」
「俺の制服だ。流石にその服のまま連れていけないだろ。食器はそのままでいいからこっち来い。」
「あんたのならでかいんじゃないか?」
「俺の成長期は高1の終わりから来たからな。遅咲きの高身長だ。」
「…だから?」
「本当に頭悪いな。だから、はじめの制服はお前にも合うレベルのミニサイズってこった。ほら、手を広げてみろ。」
皆木はバリバリとガムテープを剥がすと中から取り出したブレザーをかかげ、俺の肩にそれを合わせた。
確かにサイズはぴったりらしい。
…皆木が小さい時の事なんて想像出来ないな。
「よし。カッターシャツも2枚ある。ネクタイも取ってきてやるからこれ着替えとけ。」
「ん。…あの、ありがと。」
「あのでかい制服が理由でいじめられるのは教師としても腑に落ちないからな。」
あぁ、この制服は教師としてでなく皆木の優しさなんだろうなとなんとなく思った。
俺はただ頷いてTシャツを脱ぐと綺麗に畳まれたカッターシャツに袖を通す。
少しホコリっぽい匂いがして、それがなんだか年齢の差を感じさせた。
そういえば皆木は何歳なんだろう。
ズボンを腰まであげ、シャツを中に入れながらそんな事を考えていた。
「ほら、ネクタイとベルト。」
「ん。」
「サイズは大丈夫そうだな。俺も着替えてくる。」
「わかった。」
「着替え終わったらテレビでも見て待っとけ。」
その言葉に頷くと皆木はまた同じ廊下を戻っていく。
受け取ったベルトをズボンに通し穴に触れる。
2つだけ削れて皮が抉れている。
「…小さい方が前で、大きい方が…後か。」
成長期前と後でベルトの通す穴が変わったらしい。
俺がぴったり閉めて使う穴は皆木の成長期前の穴と同じで。
このベルトを使っていた高校1年生の皆木と今の俺が同じ体格だというのはなんだか心地悪い。
ネクタイを首に巻き、鏡を見ながらふと思う。
もし、俺と皆木が同級生で同じクラスで。
友達として一緒に過ごしていたら。
「……皆木も、同じように…俺を嫌っていたんだろうな。」
これは教師と生徒という関係が生んだうっかりな間違えみたいなもので。
もっと近くても遠くてもきっと今以上にはなってなかっただろう。
そう思うと少し寂しくて、少し切なくて。
俺はいつもよりもキツめに結んだネクタイをグイグイと上に押し上げながら喉に突き当たっても止めれなかった。
いや、止めるのを忘れていたのだけど。
「おい、人の家で自殺するなよ。」
「……うわ、っ…びっくりした…」
「ぼーっとするな。そんなにネクタイあげたらかっこ悪いぞ。」
後ろから聞こえる声に飛び上がるみたいに振り向くと、いつも学校で出会うままの姿の皆木が俺を見て渋い顔をしていた。
余計な心配ばかりしている気がする。
何を考えたって、今は今なのに。
「よし、行くか。荷物は…あー、学校で考えるか。」
「…ん。」
「フラフラどっかいくなよ。」
「わかってる。」
皆木が片手で車のキーを弄びながらクスクスと笑った。
俺もそれを見て少しだけ笑えた。
皆木の背を追って外へ一歩踏み出す。
この人の隣にいるとなにか怖くない気がする。
きっと気のせいだろうけど。
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