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コーラを一杯飲み干し、もう一杯入れ直して席へ向かう。 戻りながら席へ目を向けると千葉クンはボクがいない間に届いたらしいサラダをせっせと二つに分けていた。 「食べないって言ったの、聞こえなかった?」 「食べないとバラ撒きますって言ったの忘れました?」 「…サラダだけだからね。」 そう言うと彼は何故か満足げに笑っては小皿をボクへ差し出してくる。 レタスの上に乗った潰れた卵をフォークで除け、出来るだけ味のなさそうなところから口へ含んでいく。 1口食べる度、グルグルと胃の中で渦巻いて何かが込み上げそうになる。 「美味しいですか?」 「さぁ。」 「ここの料理美味しいですよ。よく親と来るんですけどね。…ハンバーグとそのサラダは特に俺のお気に入りなんです。」 そう話すのは至って普通の男子高校生の顔だった。 卵とソースを絡めてつまらなそうに好物を口に運んでいる事以外は。 ボクのせいで楽しくない食事にさせてしまうのは少しだけ申し訳なくなる。 「俺、先生の事いいなって思ってたんですよ。なんか楽しそうだし明るいし。」 「期待はずれだった?」 「少し。あんな写真見せられてもケラケラ笑って秘密にしてねーとか言うもんかと。」 「もういい大人だもん。そんなことは無いよ。…ね、キミの意図が全く見えないんだ。ボクを…」 どうしたいの? と言う前に、頭上からジュウと肉の焼ける音が聞こえてくる。 反射的に顔を上げると両手に鉄板を持った店員がにこやかな表情で立っていた。 「ハンバーグセットでございます。鉄板のほう、お熱くなってますのでお気をつけください。」 「…あぁ、ありがと。」 「失礼致します。」 目の前に置かれるハンバーグとライス。 それからまだ半分は残ってるサラダ。 バチバチと跳ねる油を見ながらボクは顔を顰めた。 「どうしました?」 「ハンバーグなんてもう、何年食べてないのかなって思ってね。」 「…何年食べてないんですか?」 「うーん……最後に食べたのは、……」 ハンバーグを見つめながら記憶を辿る。 いつだったか。 母親と一緒にハンバーグのタネをこねた記憶がある。 『お父さん、喜ぶかなぁ』 『奏斗が作ったんだから大喜びだよ。』 覚えてる。 熊の形だと言い張った歪なハンバーグを自慢げに父親の前に出したこと。 その後、空を舞った皿と床に落ちて崩れたそのハンバーグのこと。 『汚い、汚い…!お前なんて…』 ボク、なんて 「先生?」 「……え。」 「思い出せないくらい前なんですか?」 ハンバーグを頬張りながら首を傾げる彼の声に現実へ引き戻される。 何、思い出そうとしてたんだ。 首元へ手を触れ息を落ち着ける。 蓋をした記憶には触れない方が身のためだ。 「そうだね、忘れちゃった。」 「でも今食べたら最後に食べたの今日になりますよ。」 「…キミ変なとこでポジティブだね。」 「よく言われます。」 そう言って笑う姿につられてボクも少し笑ってしまう。 あぁ、こうやって誰かと当たり障りのない会話をすることの当たり前さをボクはすっかり忘れていた。 これがこんな他人でなく、もっと近い誰かなら尚更幸せだったのに。

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