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ブランド物のスーツを着て大きなくまのぬいぐるみを抱えてパーティ会場に立ちすくんでいたのが、生まれて最初の記憶だった。 それは俺の4歳の誕生日の催しらしく大人が代わる代わる俺へ祝の言葉をかけてくれていた。 思い出せばなんて可愛くない子供だったんだろう。 笑うことも、媚びることも、愛想を振りまくことも。 なんにも教えられてない子供だったんだから仕方ない。 「優くんおめでとう。もう4歳なんだね。」 「安もんのスーツ着てよく来れたな。」 「な、……っ…!?」 なんて不細工な顔で言い放っていた。 嫌な記憶だ。 生まれてすぐに親は俺を置いて海外へ。 俺を育ててくれたのは金で雇われた知らない男。 親は俺に莫大な金だけを送ってきたが、声も名前も顔も何も知らなかった。 みんな俺には驚くほど優しかった。 どんな態度をとっても、どんなに我儘をしても誰一人文句一つ言わず怒る事もなかった。 俺はすぐにカラクリがわかって何もかもどうでもよくなったんだ。 それは金。 「こんにちは、優くん。」 「金が欲しいなら臓器でも売って稼げば?」 何したって金。 何を見たって金。 欲しいのは金と権力と皆木の名字。 寄ってくる大人の張り付いた笑顔が気持ち悪くて仕方が無かった。 愛されない事を知っていた。 俺はこれから死ぬまでずっと、金に付きまとわれて生きていくんだと。 小学校に入って最初の七夕の時。 短冊に願いを書けと言われてただ純粋に願いを込めた。 『金は要らないから、愛が欲しい。』 幼い俺なりの心からの願いだった。 きっと寂しくて寂しくて仕方が無かったんだろう。 笹に吊り下げる時、他の生徒の願い事を見て驚いた記憶がある。 『ドーナツをいっぱい食べたい』 『遊園地に行けますように』 『空を飛べますように!』 そんなちっぽけな事、星に願わなくたって金で解決できるのに。 馬鹿だなと腹の底から笑っていた。 けれど遠くから聞こえる笑い声に大切なことに気付いたんだ。 「…お金が全てなのに、頭悪いよね。お金がなかったらあんな子誰も相手にしないのに。」 あぁ。 金が全て解決するんじゃない。 俺は金に殺されたんだと。 身の回りにいる全ての人間が怖くて仕方なくなった。 話しかけてくる人、同じ空間にいる人、すれ違う人。 全てが俺を金として見ているんだと気付いた時から何もかもが恐怖だった。 小学一年生の夏。 俺は人間不信になったまま対人恐怖症に陥り、そのまま学校に行かなくなった。 冷たい夏だった。 カッターの先で切り裂いた手首から流れる血だけが生きてる証だと本当に思っていたんだ。 「なぁ。生きてるってそんなもんだ。 誰だって思い出す度吐きそうになる思い出があるんだ。それも全部ひっくるめて俺で、お前なんじゃないか。」 目を閉じたままそう呟いた。 醜い過去に蓋をしたところで消えてなくなるんじゃない。 「まだ少し待ってる。だから、ちゃんと聞かせてくれよ。」 そう言い終わるとコンコンとノックが聞こえた。 振り向くと、ドアの隙間から一枚の紙が顔を覗かせていた。 『ちゃんと口で言える日まで、待ってて。』 その言葉に俺はどれだけ安心しただろうか。 俺は見てないのにコクリと頷くと 「声、一緒に取り戻そうな。」 とだけ呟いた。

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