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いつも通り、車から二人揃って降りる。 いつもと違うのはカバンの中に時間割通りの教科書とオニギリが2つ入っていることと、これから向かう場所だ。 「お前は生徒用の靴箱から入るんだぞ。」 コクンと頷く。 皆木は片手に白衣を持ったまま、まだどこか心配そうな顔をした。 俺が首を左右に振ると少し困ったように笑っては「そうだな」と呟いて前を向いた。 俺は慌てて持っていたボードにペンを走らせ、皆木の背をつつく。 『全部、大丈夫だから』 「気持ちだけは上等だな。…まぁ、無理はすんなよ。」 『わかってる。』 そう言うと皆木はスタスタと歩いていってしまった。 俺も大きく息を吸って心を落ち着かせる。 今なら、きっと大丈夫だ。 生徒用の靴箱で靴を履き替え階段を上がる。 周りからコソコソと声が聞こえてくる。 もう今はそんなに安い言葉気にならない。 Ωでも、俺は生きてる人間なんだから。 教室の前に立ちゆっくりと扉を開く。 扉を開いた瞬間、教室中の視線が俺に向かう。 思わずビクリと体を跳ねさせてしまうが、強くボードを握りしめ席へと歩いていく。 突き刺さる視線とコソコソと聞こえる声に息が上がる。 ……大丈夫、大丈夫だ。 「あれ?まだやめてなかったんだ。」 「今度の制服はサイズ間違ってねぇんだな。」 「何持ってんの?あれ。紙?」 声を無視したまま自分の席に座る。 カバンを横にかけ、机の上にボードとペンだけを置いて息をつく。 ここまで来れただけでも大きな進歩だ。 「楠本。無視すんなって。」 その声に頭上を見上げる。 声が出せないこと、どう伝えれば良いだろう。 正直に書き表した所で「あぁそうですか。」で終わらせてくれる奴らではないだろう。 そう思いながらペンを手に取るかどうか悩んでいると、俺が行動に移すより先に机の上からボードとペンが取り上げられてしまう。 「なんだこれ。」 「あー…全部大丈夫だから?ポエムかなんかでも書いてんのか?」 その声にゲラゲラと笑い声がおきる。 違う、と慌てて手を伸ばすとヒョイとボードが引っ込められて代わりに伸ばした腕を掴まれそのままクラスメイトは大きく腕を振り上げた。 反射的に目を閉じたのと同時に頬を思い切り殴られる。 もう、これくらい慣れたな。 「サボってた間ポエム書いてたのか?まじうける。」 「これ捨てていいだろ?ほかなんも書いてねぇしさ。」 「いーよいーよ。まじキモい。」 口の中に血の味が広がる。 頬を押さえながら「やめろ」と手を伸ばすけど意味は無い。 そのままボードはゴミ箱に投げ捨てられる。 追いかけようとするけれど、思い切り髪を引かれるとグン、と勢いよく机に振り下ろされる。 頭が鈍い音を立てて机にぶつかるとそのまま低い声が頭に響いた。 「玩具が逃げてんじゃねぇよ。おかえり、楠本。もう無駄な事すんなよ。」 その声にゾワリと背筋が震える。 分かっていたはずのストーリーなのに、それが酷くおぞましく感じた。 やっぱり、そうなのかと まだ受け入れられずにいたんだ。

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