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そんな声に頭が空っぽになっていた時、遠くでチャイムの音が聞こえた。 クラスメイトも少しは頭が良くなったのかそそくさと自分の席に帰っていく。 俺はゆっくりと顔を上げ、自分の額に手を触れた。 …血だ。 皆木が来る前に隠さないといけない。 手のひらでゴシゴシと擦って長く伸びた前髪で額を隠す。 髪を引っ張りながら皆木の声を思い出していた。 "無理はするなよ" "何かあったらすぐに言え" なんでまた、隠そうとしてるんだろう。 「ホームルーム始めるぞ。学級委員長。挨拶。」 「起立。」 その声に慌てて立ち上がる。 前を向けない。 どんな顔をしてるのか怖くて、顔を見れない。 俺は前髪を引っ張ったまま斜め下を見ていた。 口の中の鉄の味に慌てて右手を口元に触れさせる。 指の隙間にベッタリとついた血を見て、口元を隠して慌てて口の周りを舐めとる。 …バレたく、ない。 「礼。着席。」 その声にすぐ座ると前の生徒に隠れるように背を低くした。 別に怪しくはないだろう。 口に広がる血の味はいつになったって慣れなくて、その度に気持ち悪くなる。 「もうすぐ中間テストだ。お前ら、真面目にやれよ。」 その声に数人が返事をする。 ホームルームはすぐ終わりそうだ。 安心して胸をなでおろすと、少し話した後、最後に 「以上だ。それと…一つだけ大切な話がある。」 その声に思わず顔を上げる。 と、皆木は俺を一度見た後、真面目な顔で口を開いた。 「楠本だが、とある理由で声が出なくなった。と言ってもまだ原因はちゃんと分かってない。声が出ないだけで他は何の異常もないお前らのクラスメイトだ。ちゃんと仲良くやれよ。」 クラスはシンとしたままだ。 思わず俯いて机を見つめた。 みんなが俺を睨みつけているような感覚がする。 「…これで終わる。楠本、渡すプリントがあるから前に来いよ。」 そのままでいるとそう声をかけられる。 俺は目を合わせないままコクリと頷いた。 皆木がどんな顔をしてるかはまだわからない。 すぐにザワザワとしだす教室に安心し、周りに関わらないようにそのまま前へ向かう。 そこで初めて顔を上げると皆木は数枚プリントを持ちながら小さく声をかけてきた。 「大丈夫そうか。」 俺は迷わず一度頷く。 「何も言われなかったか?」 もう一度頷いた。 口を"大丈夫"だと動かすと、皆木は安心したように少し笑った。 …ずっと、この顔でいてくれたらいいのに。 そしたら俺も苦しくないのに。 「ほら、休んでた時の手紙だ。大半はどうでもいいから捨ててもいい。無理はせずに頑張れよ。」 俺がコクリと頷くとそのまま一度足を外へ向けるが、すぐに振り向いて思い出したように 「ブザー。どんな些細な事でも、例え授業中でも嫌なことをされたら構わず鳴らせよ。自己中になれ。」 と言うとそのまま教室を出て行ってしまった。 ポケットの中のブザー。 助けて欲しい時に鳴らすなら、今はまだ違うと思う。 丸まったプリントを握りしめて切れた口の内側を舌でなぞる。 痛い、けど大丈夫。 まだまだ我慢できる。

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