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☆関連イラストにて奏斗先生のビジュを公開しました
時計の針は11時過ぎ。
今日のこの時間はボクと優の授業が二人揃ってお休み。
だからこうして保健室で甘いものでも飲ませてもらいにきたんだけど、優は難しい顔で仕事をしててあまり楽しくない。
「保険室の先生って大変だね?」
「まぁな。包帯…は、まだストックあったか。」
「備品の発注?」
「あぁ。基本余裕があるうちにやるんだが…最近はあんまり手をつけれてなかったからな、まとめてやるから量がすごい。」
「お疲れ様。でも楠本クン、教室に戻れたし一安心だね。」
ボクがそう言うとリストを見ていた優が「そうだな」と言うと珍しく笑った。
…久しぶりにこんな顔みた。
そのまま片手で真っ黒な珈琲を飲みながらリストにチェックを入れていく。
きっと頭の中はボクじゃなくてあの子でいっぱいなんだろうな。
「それで、ちょっと聞きたいんだけどいい?」
「ん?なんだ?」
「優と楠本クンってもしかして一緒に住んでる?」
「…あぁ。アイツの家複雑で帰れないからって。あの感じを見ると帰ってこなくていい…とか言われたんだろうな。」
「だからって家に置いとくのは立場上まずいんじゃないかな。例え優でもボクは見過ごせないよ。」
そう言うと優はあからさまに面倒そうな顔をする。
本人だってわかってるんだろう。
正直、生徒とか教師とかは別にいい。
必要以上にあの子が優の隣にいるのが気に食わない。
…優の優しさに漬け込んでるだけにしか見えない。
「なぁ、奏斗。俺達ならわかるだろ、親に必要とされない苦しさ。」
「…わかるけど。でもそれは…」
「行き場がないんだ。放り出しても解決しない。お前だって楠本と同じくらいの時…あっただろ、そういうの。」
「ずるいよ、その言い方。」
はぁ、と大きくため息をつく。
もし優があの子に少しでも昔のボクを重ねているのならそれは少しだけ嬉しくて。
でもやっぱり悔しくて。
それっぽい理由を並べて2人を引き裂いたって優はボクのことを見てくれるわけじゃないのに。
「アイツ、昔のお前に似てる。苦しくても助けてって素直に言えないところ。」
「ボクとあの子が?」
「あぁ。お前はいつも笑ってたけどな。お陰で傷付いてるのにはいつも気付けなかった。…もうそんな手遅れにはしたくないんだ。」
「…ボクじゃ、ダメだったのかな。」
思わず出た言葉に優は「…あ?」と顔を上げて首を傾げた。
しまった。
…そうじゃなくて、そんな事じゃなくて。
ボクはマグカップに入ったココアに口をつけながら左右に首を振る。
「ボクじゃ楠本クンのこと、救えなかったのかなってね。」
「お前が居たからこそだ。支えてやってくれてありがとうな、奏斗。これからも頼む。」
誤魔化した言葉に優は疑い無くそう言って笑った。
胸が痛い。
ボクも、キミからこんな風に大切に思われたら。
…もう何もいらないくらい、きっと誰よりも幸せだったのに。
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