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「お疲れ様でした。」 そう看護師に声をかけられ、小さく会釈をする。 車椅子に座らされたままあちこち連れ回され文字通り確かに疲れた。 詳しい検査はまた後日知らされるらしい。 それだけ伝えられると皆木が言っていたとおり入院のための病室へと通された。 病室は他よりも少し広めの個室で、大きな窓が印象的だ。 壁掛けのテレビに机や本棚まであって普通に不自由なく暮らせるレベルに整っている。 車椅子のままキョロキョロとしていると部屋の奥に座ってたらしい皆木が柱から顔を覗かす。 「お、終わったか。後は俺が面倒みるから大丈夫だ。」 「わかりました。よろしくお願いします。」 「あぁ、ありがとう。」 皆木がそう言うと深く頭を下げ看護師はそのまま部屋を出ていった。 扉が閉まったのと同時に車椅子がゆっくりと前に押される。 「お疲れ。今日はゆっくり寝とけ。」 一度頷くと、そのまま体が抱き上げられベッドへと体を移される。 色々な事がありすぎてもう体が重すぎて動かない。 枕に頭を沈め、眠気でぼんやりとしたまま皆木を見上げる。 すぐ眠ってしまいそうな程、眠いけれど少し話したい。 「ん?あぁ、紙か。」 すぐに伝わったのかベッドヘッドにあるメモ帳を手に取り俺の体を起こしてくれる。 机へ紙とペンを置くと皆木はじっとそれを覗き込んだ。 聞き手の右手の指にはギブスが巻かれ暫く使わないようにと医者から強く言われた。 仕方なく左手でペンを持ち、震える手で文字を書く。 『ありがとう』 「礼を言われる資格はない。何もかも、手遅れだった。」 『きてくれただけで うれしかった』 「…そうか。お前と話したい事は山ほどあるが今は寝ろ。疲れただろ?」 皆木はそう言うと少し優しい顔をした。 …いや、優しいというよりは気を使った皆木らしくない顔だった。 今は寝ろって言葉が今の1番の願いなら俺はそれに従うしかない。 俺は素直に頷いた。 けれど、ふと思い置きかけたペンをもう一度握る。 今ならこんな我儘も聞いてくれるような気がしたからだ。 『おきるまで そばにいてくれる?』 途中から不安になって文字が小さくなっていく。 恐る恐る顔を皆木へ向けるけれど目は合わなかった。 皆木は俯いては首を左右に振った。 …いて、くれない。 「当たり前だろ。そんな事聞かなくたって傍にいる。心配なんてしなくていい。」 その言葉が心底嬉しくて。 俺はコクコクと頷いた。 わかった、そうだな、ありがとう。 そんな気持ちを込めて何度も頷いた。 「おやすみ、楠本。明日はきっといい日になる。」 その言葉になんとなくもう少し我儘を言ってみる。 少し嬉しい事があったから、これもついでだ。 『さつきがいい』 「あ……?」 『なまえで よばれたい』 少し恥ずかしくて、書いた文字を塗りつぶすみたいに左右に消す。 やっぱり気にしないで、と書こうとペンを持ち直すと書くより先に頭をポンポンと撫でられた。 「わかった。皐月、だな。…おやすみ皐月。」 『おやすみなさい』 そう書いて見上げて笑った。 笑ったのと同時に夢の中に落ちていく。 きっと幸せな夢が見られる。 起きたら隣に皆木がいるし、学校もない。 ここは病院だからレイプもない。 もう何もかも終わったんだ。 そう信じて、眠りに落ちた。

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