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ほぼ眠ってる優の腕を引っ張って、引きずるように寝室へと向かう。
本当に今日はダメ男だ。
やっとの思いでベッドまでくるけれど今度は上まで引き上げるのが大変。
「優、起きて起きて。ボク1人じゃベッドの上に上げれないよ。」
「ん"……」
「ほら。頑張って。」
そう声をかけると眠そうな顔をした優がベットへ上がりそのまま倒れるように眠りにつく。
明日になったら全部忘れてるんだろうな、なんて思いながら電気を豆電球に変え部屋を出ていこうとする。
と、その時。
後ろから腕を引かれ半ば倒れるようにベッドへ引き戻される。
「わわ、っ…」
「……一緒に寝るだろ。」
「ちょ、っと…本当に酔い過…」
「皐月、…」
その名前にビクリとする。
部屋が暗いから?手首の細さが同じ?
いや、あの子と優は一緒に寝てた?
寝るだけ、だったのかな。
「…向こうで、寝るから。」
「また怖い夢見るだろ。ほら、…あぁ。細いな本当に。ちゃんと飯食ってるのにな。」
「……ね、…」
布団の中で抱きしめられる。
優しく、まるで何かから守るように。
すぐ傍にいるんだと教えこまれるように。
違う誰かの名前を呼びながら、違う誰かだと勘違いしたまま腕の中で愛されている。
ねぇ、優。
今なら何しても許される?
片手を優の頬へあてる。
薄暗いからきっと何も見えない。
ボクのこと違う誰かだと思っていていいから今だけ、ボクを愛して。
唇へ唇を近付ける。
大好きだよ、愛してるよ。
ボクならずっとキミを愛してあげられるよ。
だから。
「……皐月、好きだ。」
触れる寸前に聞こえた言葉に、ズキンと胸が傷んだ。
ボクは 愛されなかった。
ボクは負けたんだ。
「俺が守ってやるからな。大丈夫だ。……皐月?」
「……うん、……」
苦しくて涙が溢れた。
キミに恋をして、キミを好きでいて。
どうしてここまで痛いんだろう。
ねぇボクは奏斗だよ。
ボクじゃ、ダメだったのかなぁ。
「…おやすみ。」
「また、明日な。」
ボクも キミに 愛されたかったよ。
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