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机の上にはトースト、スクランブルエッグ、それから優の好きなマーマレードのジャム。
廊下から聞こえる足音に合わせて器にミネストローネを入れてタイミングバッチリに台所から顔を出す。
「うわ、いい匂いすんな。」
「えへへ。優の好きなものばっかりにしてみました。」
「本当だ。奏斗のつくる飯食うの久々で懐かしいな。」
「昔はよく一緒に食べてたのにね。」
「あぁ、大学生の時な。」
優が濡れた顔を拭きながら懐かしそうに言う。
そんな事もあったね、なんて言いながらミネストローネを置くとすぐに手に持ちスプーンですくう。
優はこれが一番好きで。
少し多めに胡椒を入れると口では言わないけれど嬉しそうに笑ってくれた。
「ねぇ、優。この家一人で住むには広すぎない?ボク迷子になりかけたんだけど。」
「アイツにも言われた。まぁ大は小を兼ねるって言うだろ。ようやく慣れてきたしもう暫くはここでいい。」
「まぁね。…懐かしいなぁ、大学生の時の家。」
「あー…確かにな。あそこ、公園になっただろ。」
「えぇ!?折角の思い出の場所なのになぁ。」
優がトーストを齧りながらクスクスと笑った。
いつもより遅い土曜日の朝。
嘘っぽいテレビの笑い声と、大好きなキミの笑顔。
窓から差し込むオレンジの光とまだ抜け切らないアルコール。
冷たい水道水の味を飲み込みながらキミが机をなぞる。
「なぁ奏斗。俺達が出会った時のこと、覚えてるか?」
「…覚えてるよ。忘れる訳ないじゃん。」
「まぁ、そうか。」
何かを覆い隠すように、ボクらはあの日を秘密にしてきた。
触れないように そっと心の奥にしまっていた。
それはきっとボクらが思い出したくない過去だったからだろう。
そして
「まだ、8つだったか。」
「もう16年前だからね。」
キミがその記憶を紐解くように
「俺は…おまえのお陰で今生きてるんだな。」
「やだな。キミに生かされたのはボクの方だよ。」
あの日の事を口にした。
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