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俯いて床の木目を数えながら歩いていると、暫くしてお父さんの足が止まった。 僕も同じように立ち止まると目の前には木の引き戸があってそこには変な文字の書いた看板みたいなのが下がっていた。 お父さんは二度そこへノックするとゆっくりと扉を開く。 「おいで。」 その声に続くように僕はゆっくりと中へ入った。 中はお寺の中によくある、壁も床も天井も全部木の部屋。 知らない人が何人かそこでお話していて部屋の電気もついていた。 正面に木の扉があるけどそれ以外にはあんまり何も無かった。 さっきまでの不気味な感じはなくて少しほっとする。 「皆さん、夜にすみません。この子がうちの息子です。…奏斗、挨拶して。」 「奏斗です。」 お父さんに言われるままにそう言って頭を下げると皆は口々に何か言いながら笑顔で僕を出迎えてくれた。 皆、優しそうな人だ。 お父さんは僕の手を引いて正面まで行くと僕の両肩に手を置いては少し大きな声で 「本人から了承を得ました。今日からこの子を正式に主とします。男ですが申し分のない子です。そして我々がこの子を、そうすればなんの問題もありません。」 と言った。 皆はそれを聞いて拍手をしながら何かを言うけれどザワザワしてよく聞こえなかった。 主?そうする? 意味がよくわからない。 「お父さん、僕何するの…?」 「…奏斗いいか。お前は他の人間とは違うんだ。今日からお父さんと皆さんの言う事をよく聞くんだぞ。」 「わかんないよ。ねぇ、僕怖いよ…」 「大丈夫だ。今からお父さんが言うこと守れるな?」 「…なに?」 お父さんは床に膝をついて僕と目線を合わせると、人差し指と中指と薬指を立てる。 それから笑顔のまま1本ずつ指を降りながら"約束"を言った。 「大声を出さないこと。暴れないこと。そして、言われたことには従うこと。」 「したがう?」 「その通りにするってことだ。わかったな?」 「……やだ、なんだか今日のお父さん怖いもん。」 僕はそう言ってお父さんの手を振り払う。 そのままもうお家へ戻ろうと後ろを向くと、後ろから思い切り背中を蹴られ体が床へ叩きつけられる。 初めての痛みに頭がぐちゃぐちゃになって痛くて怖くて涙がボロボロと出てくる。 どうして、こんなの嬉しくない。 「奏斗。駄目だろ。」 「ぅ、っぐ……やだ、っ…やだよ、…!」 「お前は特別なんだ。わかるな?」 「わかんない…っお母さん、っお母さん、助けて!!…ねぇ誰か…ッ」 床に蹲ったままそう泣き叫ぶと、お父さんは僕の後ろ髪を思い切り引いて僕を起こすと口に指を押し込んだ。 それから怖い顔で「黙れ」とだけ言うと僕を抱き抱えて正面の扉を開ける。 扉の中は小さな部屋で、すぐ傍に大きな柱があった。 お父さんは柱の前に僕を立たせるとてっぺんにある木の枠みたいなのに僕の手を通した。 「…なに、…?」 「お前がどっかに行かないように少しだけ固定するだけだ。暴れなかったら痛くない。」 両手首をバンザイするみたいに固定される。 僕は柱の前に立ったまま動けない。 知らない人が皆僕を見て口々に何かを言っていた。 お父さんは笑顔で僕を見て一言 「綺麗だぞ、奏斗。」 とだけ言った。

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