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お父さんは何日かに一回ボクを台に縛ると嫌がってもいつも同じことをした。 お父さんはそれを「お世話」と言っていた。 お世話はお父さんだけじゃなくて、集まる知らない人もよくしてくれた。 痛いけど、それは嬉しい事でありがとうを言うようにって教えられた。 だからボクはいつも「ありがとうございます」って眠るまで言い続けていた。 それから時々、ボクは外へ一人で出かけるようになった。 怒られるかなと思ったけどお父さんはそんなボクを見ても何も言わなかった。 Tシャツ一枚でどこにでも行けた。 お気に入りは大きな川の近くの草の中。 音が消えて、人から見えなくて。 1人でも怒られないここが大好きだった。 その日の前の夜は、いつもより集まった人が多くて。 ボクが眠ってもそれから起きても縛られたまま皆に"お世話"をされた。 目覚めた時、いつもとは違って。 お腹が痛くて足がもつれてうまく歩けなかった。 それでもボクはお世話をされた広い部屋に一人でいるのが嫌で時々蹲りながら、いつもと同じ川に向かった。 「いたい、…っ…いた、い……」 泣きじゃくりながらお腹を抑えて川の前にしゃがみ込む。 お腹が痛くて痛くて、耐えられない。 時々気持ち悪くなって黄色い液体を吐き出すけどお腹の痛さは治らなかった。 苦しすぎて俯いていると後ろから 「おい。」 と、それだけの声が聞こえた。 ボクはまた怒られる。 って涙を拭って慌てて振り返る。 すると、後ろにはボクと同じくらいの歳の男の子が立っていた。 その男の子は綺麗な服を着て綺麗な靴を履いて。 それから両手首に包帯を巻いていた。 「どうしたんだ、どこか痛いのか?」 その子はそう言うとボクの隣まで来て同じようにしゃがんだ。 ボクはうまく言葉が出なくて首を左右に振る。 痛い、なんて言ったら殴られるのをボクは知ってる。 なのにその子は嫌そうな顔をするとハァ、と息を吐いた。 「嘘つくな。痛い痛いって言ってただろ。腹壊したとかか?」 「………おこ、る?」 恐る恐るそう聞く。 この子は他の人とは違う気がする。 話し方は怖いけど、でも怖くないような。 「怒る?何にだよ。どっか痛いのかって聞いてんだ。」 「……おなか、…い…たい。」 「変なもん食ったか?」 「…ぅ……?」 「変なの食べたかって聞いてんだ。」 「ぁ……、食べ…て、な…い。」 そのこの言葉は難しくて、聞いたことない言葉でよくわからなかった。 食べた じゃない。 食べてない。 その子はうーん、と悩み込むようにボクを見ていた。 その子の手首の包帯は血が付いていて、所々黒くなっていた。 どうしてもそれが気になって、うまく話せないけど言葉を繋ぐ。 「…、それ。」 「あ?」 「……血、…いた…い?」 「痛かった。もう痛くない。」 「ん、…。」 よかった。 ボクのお腹はまだまだ痛かった。 でも、この子と話してたら少し痛くなくなっていく気がした。 それを伝えたくて、でも話し方がわからなくて。 ボクは口をパクパクしたまま上手く言えなかった。 「お前、ちゃんと話せないのか?」 「……ごめ、ん…なさ、い。」 「怒ってないから謝るな。お前、汚いな。」 「へ、……ぁ………」 汚いな、という言葉に息が止まる。 この子も 同じだ。 ボクはまた ごめんなさい をしようと口を開くけどそれより先にその子の方が話し始めた。 「風呂入ってるか?怪我だらけだしな。…なぁ、それ。学校でやられたのか?」 「……え…?」 「その怪我とか、手の跡とか。」 「……お父さん。」 「はぁ?…虐待か。親がいるのも大変だな。」 その子は嫌そうな顔をするけど、すぐに少し優しく笑った。 同じ歳くらいのはずなのにボクと違ってはっきりしてて話すのが上手くて、それから大人みたいだった。 「お前、名前は?」 「…かな、……奏斗。」 「奏斗か。俺は優。もう今日は帰るけど、明日またここに来る。薬とか持ってきてやるから今日は痛いの耐えろよ。」 「ん……、…?」 「あー…また、明日もここで会おう。」 ボクが首を傾げると優はそう言って笑った。 優しい顔だった。 ボクも真似して笑ってみる。 うまく笑えてるか、わからないけど。 「またな。」 「……またね、優。」 忘れかけた毎日が戻ってきたみたいだった。 ずっと前に無くした友達とか学校みたいで。 ピカピカの優と、ボロボロのボクは真反対だったけどその時のボクはそんな事わかっていなかった。

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