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深い深い眠りの中。
優の泣く声が聞こえる。
早く起きたいのに目が開かなくて、でも右手が強く握られてる事だけわかった。
優が泣いてるのが嫌で、ボクは歯の奥を噛み締める。
早く夢から覚めて。
「んっ、……」
歯がピキ、と痛むのと同時に目が覚める。
瞼を開くとすぐ側に優の顔があった。
涙でいっぱいで目が赤くなってる。
「奏斗、奏斗…!!よかった…もし、目、覚まさなかったらって……」
「…大袈裟だよ。」
少し怪我しただけ。
いつもより全然苦しくなんてなかった。
これくらいで死なないよ、と笑うと優はコクコクと頷いてまた泣いた。
それでも肩は少し痛い。
そう言えば、と痛む右手を見ると手のひらが優の両手に強く握られていた。
痛さの正体はこれみたい。
「優、右手痛いよ。」
「…あ、…ごめん。」
「ううん。優、ボクのために泣いてくれたの?」
「当たり前だろ!俺のせいで怪我させた。…奏斗は関係ないのに。」
「関係なくないよ。優が怖い目にあってた、優が助けてって顔をしてたから。」
ボクがそう言うと優は悲しい顔をして俯いた。
ボタボタと涙を流しながら途切れ途切れに話し出す。
いつも格好良かった優が初めてボクに見せた弱いところだった。
同じ歳の子供の顔だった。
「俺、生まれた時から親が居なかった。金しかなくて…周りには俺の家の金を狙った大人ばっかで。物心ついた時から作り笑いばっか見てた。皆、俺の事なんて見てくれなかった。
本当は寂しかったんだ。同じで怖かった。…皆が俺じゃなくて俺の後ろにある金を見てるのを知ってから何もかもわからなくなった。
人の顔が見れなくなって、声が怖くなった。怪我すると出る血を見た時だけがさ、なんか…他の人と同じなんだって安心できた。」
優は泣きながら手首の包帯を外した。
包帯の下には幾つもの切り傷があって、まだ新しいのもある。
血の滲む傷口を上から握りしめると弱々しく言った。
「良くないってわかってた、でもこれしか無かった。怖かったんだ、生きてんのか死んでんのかすらわからなかった。なんで生まれた?なんでここにいんだって。…引きこもって毎日、カッターで切り付けることしかしてなかった。
でも、あの時、奏斗に会った。奏斗が痛い痛いって泣いてるのを見て…違うって思った。
"痛い"で喜んじゃダメなんだって。
奏斗だけはいつも俺を見ててくれただろ。俺さ、奏斗の笑顔が好きだ。奏斗が笑ってたら何でもできる気がした。1人でも…いや、2人なら。何でも…誰も怖くない。」
ボクは手を伸ばして、手首を握る優の手に重ねた。
優の手は暖かかった。
ボクたち生きてるね。
なんて言ったら笑われちゃうかな。
「ボク、毎日お父さんに怖い事とか痛い事とか沢山されるよ。でも優に会った日から平気なんだ。お昼になったら会えるでしょ?
ボク優のためにこれからもいっぱい笑ってる。ううん、いつも…ずっと、笑ってる!」
だから
「優もボクの隣で笑っててね。」
優は頷いて涙でいっぱいの顔で笑った。
ボクらはまだまだ小さくて弱いけど2人なら何も怖くない。
ねぇ、優。
ずっと ずっと 隣にいてね。
約束だよ。
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