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助けて 誰か あれから どれだけの時間が経ったのかわからない もしかしたら10分かそこらなのかもしれない。 父親はボクの両腕を頭上へ結びつけると、爪先だけがギリギリ床へ付く位置でボクを吊るしてしまった。 そのせいでバランスは悪いし力が抜けると両手首へ全体重がかかるようになっていた。 それから何か飴玉のような物を口に入れられ、そのまま口をテープで隙間なく留められてしまう。 息が上手くできない上に甘ったるい味に視界がグラグラと揺れた。 その後、根元を強く紐のような物で縛り上げると 「これはお仕置きなんだ、いいな?」 とだけ言ってボクの視界と聴覚を奪う。 文字通り 何もわからなくなってしまった。 動けない、聞こえない、見えない。 パニックになって手首の拘束を引っ張るとそれと同時に後ろへ何かが押し当てられた。 それが何なのかは今更考えなくたってわかる。 1、2回擦り付けられた後、慣らされもしないソコへ押し入ってくる。 痛みだけじゃない。 ぼんやりとした中に電気の通るような快感が混ざりこんでくる。 あの飴玉のせい?それともボクがおかしい? 痛い 気持ちいい 苦しい 怖い 動けない 逃げることも、助けを求めることも出来ない それからすぐ ただ 快楽しか感じることが出来なくなった。 身体中を這いずり回る手があちこちを刺激する。 浮き出た肋骨を撫でる指でさえ快楽へ導く要素になった。 「ん"、っ……ぅ"…──!!」 篭った声しか出なかったが、その声さえも微かに聞こえるだけでちゃんと出ているのか分からなかった。 何もわからない 誰も 助けてくれない 真っ先に頭に浮かんだのが優だった。 優なら、助けてくれる? 優がもし今、来たとして こんなボクを見てどう思う? 「汚い、近付くな。」 きっとそう言って向こうに行ってしまう。 遠ざかる優の背中で頭が埋まる 嫌だ 置いていかないで ボクには優しか、優しかいない そうだ 今 ボクを抱いているのが優だと思えば 「奏斗。」 優の笑顔が浮かんだ瞬間 「ぅ"、っぐ……っ、!」 罪悪感と嫌悪感に襲われ、胃液が逆流する。 何も食べてないせいで固体は出なかったがそれでも塞がれているせいで行き場のない嘔吐物が口の中でグルグルと回った。 それはまだ喉に戻りそれからまた吐き出されていく。 「奏斗?大丈夫か。」 「…なぁ、奏斗。いつも笑っててくれるんだよな。」 「笑えよ、奏斗。」 ボク、笑ってる 笑ってるよ 「時枝さん、かなちゃんこれ吐いてません?このままじゃ喉詰まらせて…」 「テープ剥がしてやれ。」 いっそ 死んだ方がきっと楽になれるのに 「ぉ"、え……っ、っ…ァ"あ…あ、…!」 快楽と吐き気が混ざりあってぐちゃぐちゃになる この世界はこんなに汚い ボクは もう 何も残ってない 「かな。」 いつぶりかに外の音が聞こえる。 ボクの名前を呼ぶ声とネチャネチャと粘着質な音。 肉のぶつかり合う音。 それから 「ぁ"、っぐ……ひ、ぃっ…、っぁ…!!」 壊れたようなボクの声。 耳を塞ぎたくなるような現実にボクはまた胃液を吐き出す。 感覚がない。 もう、何もわからない。 何も ない? 「かな、そろそろ…イきたいだろ?ちゃんとクチでいうんだ。」 いきたい? い、きたい 「死、に"た…い……っ…もう、生き…た、ぐ……な"い……っ…」 ボクを繋ぎ止めていた 何かが壊れる音がした。

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