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もう2日、奏斗は連絡なしに学校を休んでいた。
奏斗は携帯を持ってないし俺達は直接会うしか連絡手段はないんだからそりゃ休みの連絡が来るわけはないんだが。
担任に聞いても体調不良としか聞いてないらしい。
それでも何か、奏斗のいない学校生活はつまらないし一人の登下校は寂しかった。
明日は来るだろうとその日も特に家へ行く事もなかった。
次の日。
いつもの間に合わせ場所へ向かうと、2日ぶりに奏斗の姿が見えた。
向こう側を向いていたが長い髪と背中は奏斗に間違いない。
駆け足で傍まで向かうと奏斗はゆっくりと振り向いて笑った。
「優、おはよう!」
俺はその挨拶へ返事ができなかった。
振り向いた優は左目へ眼帯をし、頬は腫れ上がっていた。
首には誰かに絞められた手の跡があったしあちこち青痣だらけだ。
こんなに酷い怪我を見たのはまだ学校へ行く前で最後だった。
「その、…怪我………」
「あはは。お父さん怒らせちゃった。でも大丈夫さ、もう痛くないし見た目が派手なだけで案外浅い怪我ばっかだしね。」
「…怒らせた?怒ってするレベルの暴力じゃないだろ!」
「平気だよ。それより遅刻しちゃうよ、早く行こ?2日も休んでたから授業遅れちゃうなぁ。」
奏斗は何も無かったかのようにそう言っては先に歩き出した。
平気なわけが無い。
痛むに決まってるし、見た目通り深い傷のはずだ。
怪我だけじゃない。
この2日間、奏斗がどれだけ怖い思いをしたのかそんなの考えなくたってわかる。
「…奏斗。」
「ん?なぁに?」
振り向くとコテン、と首を傾げた。
俺はじっと奏斗の目を見つめた。
奏斗の目は俺を見ているようで見ていなかった。
何かを諦めたような
『もうどうでもいい』みたいな目をしていた。
「俺、教師になる。」
「……へ?」
俺の言葉に奏斗は間抜けな声を出す。
何を言ってるのかわからない、みたいな顔をするとようやく俺のことを見てくれる。
どこかに行っていた奏斗が帰ってきたみたいだった。
「…学生のうちから未来を諦めなくて済むように。俺はきっと他人には手を貸せないし誰かのために…なんて綺麗事は出来ない。
でも教師ならきっと、嫌でも誰かを救えるはずだ。
奏斗みたいに苦しんでるやつを、本音を言えずに飲み込んでるやつを一番傍で少しでも支えてやりたい。
…だから、俺は教師になりたい。」
「…どうしたの、いきなり。」
奏斗はおかしな奴を見るみたいな目で俺を見ていたがすぐにクスクスと笑い出した。
一番の親友で、一番お互いをわかってるはずだ。
そんな奏斗だから俺の唐突な宣言にこう言ったんだろう。
「キミらしくていいと思う!」
そして次に目を伏せて続けた
「でもね。ボクはキミが先生じゃなくて、親友だったからこうやって救われたんだよ!キミとボクは唯一無二の親友だってこと…忘れないでね!」
「…あぁ。」
奏斗が傷だらけの顔で笑った。
もうきっとチャイムには間に合わないだろう。
2人きりの朝。
いつもより温かい風が吹いていた。
これを青春と呼ぶには少し痛々しすぎる気がする。
それでも
俺がいて 奏斗がいて
そこに 笑顔があるんだから。
「奏斗、お前が親友で本当によかった。」
「ボクもだよ。ずっと、隣にいてね。」
これはきっと青春で
今目の前にいるのは世界で一番の親友で
俺が確かに"幸せ"だって事がここに証明されている。
「なぁ、親友。今日は一緒にズル休みしないか。」
「あっはは!教師宣言初日でズル休みかぁ…最高だよ、親友!」
ありがとう、親友。
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