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奏斗は俺の部屋の椅子に座り、特に何も言わずいつも通りの顔をしていた。 思えば奏斗が俺へ苦しいだとか辛いだとかそんな事を言ったのは中学の時のあの土手で最後だ。 学校に行くようになってからはあれ以外弱音のような事は言わなかった。 それは、今日も同じ。 「…なぁ、奏斗。」 「ん?なぁに?」 「大学…行くなら、一緒に家出ないか?俺もいつまでもここに居たくはないし俺はお前をあの家から連れ出したい。」 「うーん…でも一人暮らしは難しいかも。お父さんがすぐに出してくれるとは思えないしきっとすぐ見つかっちゃうしね。」 奏斗は肩を竦めて笑った。 それは悲劇的な事を無理やり笑いに変えたようなもので俺はクスリとも笑えなかった。 どうにかしたい、どうにかして奏斗を救いたい。 俺の何かを犠牲にしてでも。 「…それなら一緒に住めばいい。それから、同じ大学に行こう。いつも一緒にいれば怖くないだろ?」 「それ、本気で言ってる…?」 「あー流石にキモイか。悪い。」 そう言って顔を伏せる。 俺と奏斗は唯一無二の存在で、親友で、互いの一番であるはずだがどこか壁があるような気がした。 奏斗は俺になにか本音を隠しているような気がして仕方ない。 俺の迷惑をかけないよう…いや、嫌われないように。 そんな風に思えた。 あの日、ボロボロの俺達は確かに手を取り合ったはずなのに未だに気を使わせているのかと思うとどこか苦しくて悲しい。 「キモい…とか、じゃないんだ。…上手く言えないけど、あのね。」 奏斗は言葉を選ぶように悩みながらそう言った。 いつもペラペラと都合のいい事や、相手の望む言葉を言ってしまう奏斗とは違って慎重すぎる物言いだった。 これが"本音"を言う姿なのだと思うと少しだけ安心する。 「キミに迷惑をかけるのが怖いんだ。きっと…いつか日常を邪魔しちゃうから。キミが嫌な思いをする必要は少しも無いしボクは今のままでも平気…なんだ。」 「…そんだけ怪我して、縛られて。それでも平気か?それでもお前は今の生活を幸せだって胸張って言えるか?」 俺はこの質問を「そうとは言えない」という答えを期待して言ったつもりだった。 けれど、奏斗はパァっと笑顔になって嘘偽り無く一言 「もちろん!だって、優がいるから。」 と言い放った。 俺は、それが悲しくて苦しくてそれから救わなきゃいけないと思わされた。 奏斗は今、どん底で生きていて俺が唯一の存在なんだ。 俺が救わなきゃ誰が救う? 自分ですら気付いていない苦しさに俺は気付いてるんだ。 「奏斗。」 「ん、…なぁに?」 奏斗はカクン、首を傾げた。 俺は真っ直ぐその目を見て、未来を誓う。 これは 俺と奏斗の 誰よりも強い友情と約束だ。 「一緒に家を出よう。俺が、お前を守る。」 奏斗はぽかん、と俺の顔を見ていた。 それから一度俯いてすぐにクシャリと笑うと 「約束!ボクも、ホントはキミと居たかった。」 と言った。 「二人で生きていこう。こんなクソみたいな世界抜け出せばいい。なぁ、俺達は幸せになれる。」 「もちろんさ。…ボクらは立派な大人になろうね。」 「あぁ。約束だ。」 二人で笑顔を交わす。 これは、誰にも破られない二人だけの秘密だ。

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