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アメとムチ

「なぁんて、懐かしいなぁ。」 奏斗がクスクスとそう笑った。 笑える話では無かったと思うが、まぁ本人がそう思うのなら否定はしない。 俺は今でもこの無邪気で明るい奏斗の笑顔が心からの感情なのか時々、疑っているのだがそれは本人には言わないでおいた。 「思い出したくない思い出だろ。俺にとっても、お前にとっても。」 「そう?ボクはキミに出会えただけで結果オーライさ!」 「…ま、お前はそういう奴か。」 出された朝食を食べ終え、皿を重ねる。 奏斗はそのさらを見て満足げに笑った。 コップに口をつけながらそう言えば、と口を開く。 「奏斗は今、俺にどれくらい自分の事話してる?」 「ボクのこと?99.9%かな。」 「…いや、流石にそれは嘘だろ。」 「あっはは!まぁね。でも、キミに意図的に隠してる事は一つも無いよ。そんな仲じゃないしね。」 「まぁそうか。だが、俺達くらいの仲でも知らない事はあるだろ?」 「うーん、きっとね。でもどうして?」 奏斗は論点がわからない、と言うように首を傾げた。 俺は奏斗が家で一人の時どんな風に過ごしているのかも、俺以外の人の前でもこんな話し方をするのかも知らない。 もちろん親の前での奏斗の態度もだ。 …という事は。 「実際のとこ、俺は楠本の事どれくらい知ってて…理解してたんだろうなと思って。」 「なるほど。難しいね。現実的に言うとほとんど知らなかったんじゃないかな。だってキミ、彼の可哀想な所にしか目が行ってなかったみたいだし。」 「……確かに。」 「案外、家では兄弟と仲良く笑ってたりするかもよ。そうじゃなきゃあんな話し方したり、笑い方はしないと思うからね。」 あんな話し方や笑い方。 その言葉に引っかかった。 俺の知ってる皐月の笑顔と、奏斗の知ってる笑顔は同じなんだろうか。 もしかしたら皐月は俺以外の前の方が砕けた顔していたんじゃないか。 「…そうかもな。母親とは比較的仲良い関係らしいし、案外心配しなくていいかもしれない。」 「そうそう。ほら、職業病出てるよ?少し忘れるーって決めたんだからあの子のことは考えないの!ここには今ボクがいるんだから!」 「あぁ、そうだったな。」 奏斗がぷくっ、と頬を膨らませる。 それを見て笑うと奏斗もクスクスと楽しそうに笑った。 学校に一緒に来てた兄貴とは筆談交えつつとはいえ会話もしていたし、そこまでは緊張していないように見えた。 俺の心配のしすぎかもしれない。 今日はどこかに遊びに行こう、という奏斗の会話へ頷き暫くはアイツのことを忘れてしまおうと頭の中を埋めていた悩みを無かったことにした。

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