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頭が重くて目が開かない。 ここはどこだろう。 保健室か? 「楠本クン、眠ってるね。」 「…あれだけあったんだ。寝ててくれないと困る。」 「あはは。それもそっか。」 「俺は目が覚めるまでここにいる。奏斗は帰れ。」 「んーそうしよっかな。また明日、教えてね?」 「あぁ。」 いつもの消毒液の匂い。 少し遠くで、聞きなれた二人の会話が聞こえてきた。 硬いベッドと柔らかい布団。 …保健室で間違いなさそうだ。 何度目かのレイプと、この体のだるさにはもう慣れてしまって。 いつものアレか。ってそんな状態だった。 早く起きて、できたら時枝先生が帰る前にありがとうを言いたい。 「それじゃ、またね。」 「またな。」 あ、待って。 まだ行かないで。 無理やりにこじ開けた目の先。 明るい天井と、光る蛍光灯。 それから刃物の先端が見えた。 消毒液の匂いが鼻を突く。 時々雨みたいに水滴が落ちてきた。 体はまだ動かなくて、仕方なくただ目の前の鋭い刃先を見つめていた。 それは包丁みたいで。 水滴の先には母親の顔があって、何かを呟きながら俺を見下ろしていた。 殺すのか? そう心の中で呟いた。 声すら出ないのは、本当に無力で。 俺、殺されるほど憎まれてたんだってむしろ少し楽になって。 ぼーっと見上げながらむしろ殺すなら一思いに楽にお願いします。 なんて考えていた。 目を閉じ、さっきの幸せな夢の続きを考える。 その後。 目が覚めてベッドから降りるともう先生はいなくて。 追いかけると言うと皆木は安静にしてろと困った顔をして。 それから、暖かいはちみつレモンをくれる。 それから それから 俺の 名前を呼んでくれて 抱きしめてくれて 大丈夫だって 言って くれ て 「……ごめ、ん……ね…」 俺は それに頷くんだ。 ずっと一緒にいたいって 我儘をいうんだ。 「っ、母さん何してんだよ!!」 その声に現実に引き戻される。 目を見開くと、もう包丁は無くて代わりに兄が傍にいた。 母親は金切り声をあげてわんわん泣きながらどこかへ行ってしまった。 俺はドクドクと鳴る心臓を片手で抑える。 まだ、生きてる。 「…皐月、大丈夫か。」 俺はぼーっと兄の顔を見あげる。 怖い顔をしていた。 どうしたらいいかわからず、ただ見つめていると兄は一度ため息をついてその場に座り込んだ。 「お前…ほんっとに、嫌われてるな。」 そう呟くとクスクスと笑い出す。 そんなに面白いことか、と俺も少しだけ笑う。 兄は続けた。 「ここ、うちの病院な。体はなんとも無いってよ。一応避妊薬だけは飲ませたけどもしなんかあったら言えよ。ガキは流石に面倒見れねぇから。 あと父さんにも一応言ったけど、明日も学校は行けって。テスト前だもんな。それと母さんはあんな感じ。」 俺は頷いた。 わかってたし、別によかった。 兄に言いたいことはいくつかあったけれど、まだ文字は書けそうにはなかったし相変わらず声は出なかった。 「なぁ皐月。お前、あの教師とどんな関係なんだ。」 「恋人同士か?」 「…アイツの態度、どう見ても担任の目じゃなかっただろ。」 「違ったらいい。 」 「もしかして、番か?」 兄は淡々とそう連ねた。 俺は首を横に振る。 番なんかじゃない。 俺に、そんな資格はない。 すると兄は 「父さんが言ってた面倒な教師とってあいつだろ。今までもいくらか世話になってんだろうな。」 と呟いてまたため息をついた。 それからグシャグシャと頭をかくと 「お前の人生、お前で決めろよ。医者になるのが人生のゴールじゃねぇんだからさ。」 と言ってどこかへ行ってしまった。 その言葉の意味を理解できないまま俺はまた、眠りについた。

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