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皆木の顔を見上げながら、心臓が潰れそうなくらいに胸が痛む。 苦しくて苦しくて仕方ない。 俺だってもう何が何だかわからないんだ。 人間らしくないって こんなのおかしいって わかってるんだよ。 「…俺、もうお前が壊れていくのを黙って見てられない。そこにいるのに近づけないなんて、防げないなんて耐えられないんだ。」 皆木がそう呟いた。 レイプも暴力も苦しい事には変わらないが一度も二度も同じだと思っていた。 痛みは我慢すればいつか消えていた。 でも、皆木を傷つけるなら。 …それは嬉しくない。 『ごめん』 「…謝らせたいんじゃない。」 『皆木をきずつけるなら もう、次はないようにする』 俺がそう書いた文字が皆木の手で塞がれる。 驚いて顔を上げると、皆木はゆっくりと顔を左右に振った。 「違う。」 「俺を、じゃない。…自分をもっと大切にして欲しいんだ。」 俺は顔を見あげたまま何も答えられなかった。 自分をもっと大切に? 価値がないと言われ続けて 死ね 消えろって 出来損ないで 失敗作で 何もやり遂げれない俺を 誰からもいらないと言われて捨てられた そんな俺を 大切に? 訳が分からない。 だって、俺は苦しいと嘆くことすら許されないのに 「皐月、会えない間も離れてる間も忘れないでくれ。 俺は……」 その時、ガチャガチャとドアが鳴り次にコンコンとノックが響いた。 来客らしい。 保健室には俺と皆木の2人だけ。 こんな所誰かに見られたら何になるかわからない。 「…悪い、隠れててくれ。」 俺はその声に慌てて駆け出す。 ベッドの上へ上がりカーテンを閉じると、すぐに皆木の声が聞こえてきた。 「すぐ開ける。」 白いカーテンの中で、向こう側を見つめた。 透けて見えるわけはない向こう側を。 俺は…… その言葉の先を思い描いて目を閉じる。 言葉を交わしていない時間が長すぎた。 この、ほんの少しそばに居る間が、目と目が合う瞬間が。 こんなにも幸せなんだと改めて気づいた。 どれだけ苦しくても辛くても、きっと貴方がまた傍にいてくれるから。 「ベッド…は、今少し先客がいるんだ。」 妄想の中にそんな声が聞こえた。 慌てて隠れたのはいいけれど、保健室は本来体調不良の人が来るはずの場所。 今だけ隠し通してもいつ誰かが来るかわからない。 それに今も実際、誰かの邪魔になってる。 俺は振り向いて窓に手を触れる。 鍵を外して窓を開けるとヒラヒラとカーテンが揺れた。 いつかの日、ここから逃げ出して先生に追いかけられた事があったっけ。 そのあとこっぴどく怒られて問いただされたことも。 あんなに分かり合えなかったのに。 今はあんたがいなきゃ 生きていく気にもなれない。 鞄の中の紙を引っ張り出してメモを残す。 枕の下にそれを入れて、窓から外へ飛び出した。 外は蒸し暑くて雨音に混じって蝉の声が聞こえてきていた。 また、すぐに会えるから。 その時は 話の続きを聞かせてくれるはずだから。 俺はもう少しだけ 頑張ってみる。 『もう少し強くなれたら また会いに来ます。』

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