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体調不良を訴える熱のない生徒を言いくるめて教室へと返し、ようやく静かになった保健室でアイツが飛び込んだベッドへ目を向ける。 時々、ヒラヒラと揺れるカーテンを見てゾッとした。 いつかの光景を思い出す。 もし この先に アイツがいなかったら。 「……皐月、…っ!」 思わずそう声を上げ、ベッドを隠すカーテンを勢いよく開いた。 真っ白なベッドと開かれた窓。 半開きのカーテンが風をうけてはためいていた。 外は大粒の雨が降り注ぎ、地面へ叩きつけられている。 「っ、…く、そ………」 どこへも向けられない怒りが腹に溜まって、思わずベッドを殴りつける。 窓へ手をかけ外を見回すが雨でとっくに足跡は消えていた。 どこに行ったのかもわからない。 大雨の中、1人でさ迷っているのか。 それとも何食わぬ顔で教室にいるのか。 冷たいと震えてないだろうか また一人耐えていないだろうか 体を拭くタオルは? 誰か アイツの事に気付いているのか。 また 離してしまった。 後ろ姿を見ることさえできず。 暫く呆然と窓の外を見ていたが、とうとう風が出てきて雨が中へと吹き込んできた。 ハッとして窓を締めるがベッドは湿っているし俺の服も水玉になっている。 「はぁ、……情けない。」 かすれた声が誰もいない保健室へ落ちる。 爪痕すら残せなかった事が悔しくて仕方ない。 やっと会えたのに、やっと話せたのに。 会えない間も離れている間も忘れないでくれ。 俺は 「……お前が好きだ。」 と 最初に伝えてしまえばよかったのに。 いつも肝心なところで俺は間に合わなくなる。 なぁ 皐月。 お前が好きだよ。 お前は俺の事、どう思ってるんだ。 お前の気持ちが知りたいよ。 * 「え?楠本クンなら今日は欠席だよ。」 昼休み、アイスココアを片手に奏斗はそう言った。 むしろ知らなかったの?なんて付け足して。 「野暮用でSHRは行けなかったんだ。…欠席か。」 「もー、急に聞いたと思ったら何?また何かあった?」 「いや。なんとなくな。ほら…あのー…昨日の今日だろ、…まぁ来てなくて当然…か。」 「そうだね。」 奏斗はつまらなそうに言うと、ココアを一口だけ飲んでから俺の頭にずい、と手を近付けた。 それから中指を思い切り弾く。 コツン、とデコに勢いよくその指が当たって 「い、ってぇ……!?お前、何して…っ」 「何して、じゃないよ!あの子の事忘れる忘れる、もうやめるーって言いながらずーっとあの子の事ばっか考えて。 昨日だってボクに説明もせずにいきなりすっ飛んで行ってさ?」 「……いや、あれは…」 「言い訳は無用!今はお兄ちゃんに任せておこうよ。…心配すること無さそうだし。」 奏斗の言葉に今だけは頷けない。 確かに、アイツの言うことは理解出来ないし今は力になれる自信はない。 …それでもさっきの態度は違ったんだ。 今までは無理やり無視してたみたいな… 本当に俺は何もせずに待っていていいのか…? 「優?」 「…今まで、こんなに悩む事なんて無かったのにな。」 「あはは。Ωの事だもん。…αのボクらにはきっと分かんないよ。」 「そうかもな。」 頭を抱えて机に突っ伏する。 たった一人の男に振り回されて、いつまでも解決策がわからない。 気持ち悪くて分からないのに なのに それでも アイツがいいんだ。

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