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雨の中、カバンを抱きしめて狭い校舎裏を歩く。
傘は無いし屋根も遠い。
それにもうびしょ濡れで今更屋根に入ったって意味は無い。
なんとなく今日だけは大人しく教室には戻りたくなくて。
自然と校門へ足が向かってしまう。
登校してないとバレたらなんて言われるかわからない。
テスト前に授業に出ないのがどれだけ悪い事かなんてわかってる。
でも、でもさ。
机に向かって真面目に黒板を見つめても理解が出来なくて。
休み時間にはいつも痛みに耐えるような。
それで俺は 本当に強くなれる?
強いって それって、なんなんだ。
校門を一歩出て濡れた大通りを見つめる。
Ωである事が 全ての元凶なら
また あの日 みたいに
「君、楠本皐月くん?」
悪い事が頭をよぎり、思わず前へ一歩踏み出した時後ろから名前を呼ばれた。
勢いよく振り向くと知らない男の人が立っていた。
高そうなスーツを着たその人は、にこやかに笑った。
コクン、と一度頷くとその人は嬉しそうに俺へ傘を差し出す。
「そうかそうか。君の噂を聞いて、どうしても会いたかったんだ。
Ωであるせいでいろんな目にあったんだってね。良かったら話を聞かせてくれないかい?」
バチバチと傘に雨が当たる。
俺はじっとその人の目を見つめた。
優しそうな目、それから笑顔。
初めて向けられる目を何故か怖いと思った。
出会ったばかりの時、時枝先生に感じた感覚と同じだ。
"優しいが怖い"
話をするにも俺は声が出ない。
それに、聞かれるのはきっと知らない男にするような話じゃなさそうだ。
俺は首を左右に振り、頭を下げるとそのまま傘から出ていく。
わざわざ来てもらったけれど、関わるのは遠慮したい。
「そっか、残念だ。…本当に。」
立ち去ろうとした所を、腕を掴まれる。
ガクンと体が揺れて振り向くとその人はまだ笑顔でそこに立っていた。
あれ。
手、解けない。
優しく笑うその人の目を見ながら俺は、フルフルと首を振った。
その人はただただ笑顔で俺を見ていた。
雨の音と時々走る自動車の音。
全部が混ざりあって 何もかも吐き出しそうだった。
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