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「どんなやつだ?」 興味本位だった。 いや別に、いい男だったら買おうなんて意味ではなく。 本当に世間話のつもりで。 「僕もあんまり他の子については知らないんですけど、ここの人が愚痴を漏らすみたいに話していて。 すごく可愛い顔をしていてΩの気が濃いみたいで。…でも、すごく無口で困るーって。」 「無口?」 「はい。無口と言うか、反抗的?みたいで名前を言わせるのに一日かかったみたいな事言ってました。」 青年はうーん、と悩むようにそう言う。 それから俺の顔を覗き込みニコニコと笑った。 「でも、どんなプレイでも受けるっていうのが売り文句みたいで今はかなり人気みたいですよ!」 「……へぇ。」 「あれ。あんまり興味なかったですね、すみません。」 「いいや。色んな奴がいるんだなと感心してただけだ。」 そう言うと青年は「僕がそばにいるのに?」と言って身を寄せてくる。 抱くには少しあざといくらいが可愛い。 俺にはこれくらいが丁度いい。 冷たい肌を抱きながら、もう頭の中はさっきのΩの話なんて忘れていた。 * 「また、待ってますね。」 ベッドの中で手を振る青年へ手を振り返し、フロントへ向かう。 途中、星のついた扉を見つけて立ち止まった。 この店の扉で星がつくのは一定期間でそこそこの売上を残した奴だけってのを昔に聞いたことがあった。 扉のフレームにはアルファベットでその名前が書いてある。 星の下のフレームには 「……SATSU…KI。」 聞き慣れた音に思わず扉に触れる。 源氏名だってことも、この中に皐月がいない事も分かっているのに。 そうしていると後ろから別の足音が聞こえてきた。 「皆木様、おかえりですか?」 「あぁ。」 「……と、この扉に何か?」 「いいや。星が付いてたからつい立ち止まっただけだ。」 ボーイに声をかけられそう答えると、それはニンマリと笑った。 まるでいい儲け話を見つけた…という顔で。 「この部屋の者はつい最近来たのですが、今トップ3まで上がっておりまして。 容姿も大変よく…どんな要望にも答えます。」 「へぇ。まぁ、俺はそんなアブノーマルなプレイは好まないんだが。」 「そうでしたね。よかったら顔だけでも見て帰ります?今、休憩中なんで寝てるかもしれないですけど。」 「……それじゃ、顔だけ。」 なんとなく星のついたSATSUKIという男が気になった。 一目見るだけでいい。 そう思っていた。 ノックの音と、ゆっくりと開く扉。 「あぁ、やっぱり眠ってますね。起こしますか?」 天井から吊り下げられ、鞭の跡のある青年…いや少年にも似た幼い容姿。 目隠しとギャグボールのせいで顔の殆どは見えない。 伸びた髪が鎖骨にかかり天井から手首を吊られ、つま先だけで体重を支えながら首を折って床を見つめていた。 眠るには、あまりにもひどい光景だ。 「いや寝てるなら起こさなくていい。にしても、酷い環境だな。」 「こういうのを好む方も多いので。あぁ、もちろん夜になればベッドに寝かせますよ。」 「だろうな。休憩中くらい下ろしてやればいいのに。」 「彼本人が面倒だと断ったので。」 男はそう言って困ったように笑った。 まぁ、二度と会うこともない他人のことはどうでもいい。 もう帰ろうと体を傾ける。 男がそれを見て扉を閉めた。 徐々に狭まる隙間と視界の中、遠くの青年がゆっくりと顔を上げた。 顔は見えない。 けれど そのどこかに 「……皐月、…?」 面影が見えて。 「えぇ、SATSUKIです。」 いやまさか。 こんなところにいるわけが無い。 …いるわけ、無いよな。 「そう…か。ま、名前は覚えておく。」 「ええ。皆木様の指名でしたらすぐにご用意しますので。」 「あぁ。いつもありがとうな。」 廊下を進みながらさっきの一瞬の顔を思い浮かべる。 いつか、見た。 汚れた体と拘束の姿。 よく似ていた。 …けれど、小柄で髪の茶色い青年は全てあいつに見える気もする。 今は忘れておこう。 きっと、そんな事は無いはずだから。

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