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重い頭を上げる。 あぁ、もう。 どうしたって許されない。 画面が暗くなった携帯をポケットへ押し込み他人の思い出だらけの部屋を見回す。 こんな居心地が悪い場所もそうそう無いだろう。 父さんと母さんに言おう。 流石に自分の子供がこんな事になってたら探すはずだ。 そこまで皆おかしくはないだろう。 それで、見つけて。 今からでも遅くない。 もう一回この家族をやり直そう。 そしたら 少しは 「……許される、わけ…無いだろ。」 罪滅ぼしにもならない。 自己満足の、提案。 フラフラと階段を降り、リビングを覗く。 新聞を読む父親と夕飯の支度をする母親。 ありふれた家族の夕飯前に息子の姿は俺しかない。 5つ並んだ椅子にはもう随分前から家族は揃っていない。 「…あのさ。」 俺がそう声を上げると、二人の顔が上がり俺へ向けられる。 喉の奥が閉まるような感覚。 恐怖と苦しみ。 皐月は何度この感覚に陥ったんだろう。 「掃除は終わったか?」 「…まだ、なんだけど。」 意を決して、詰まりそうな言葉を吐き出す。 「皐月、どこにもいないって。行方不明だって。学校…出たあとどこいったか分からない。もう一ヶ月も前から誰とも連絡取ってない。…生きてるか死んでるかもわかんないってさ。」 俺がそう呟くと、母さんは静かに鍋の火を消した。 父さんは新聞を畳みそれを机に置くと顔を顰める。 よかった、まともな反応だ。 と安心したのは一瞬だけ。 「だからどうした?」 「…どうしたって、…なにそれ。」 「アイツはもう家に入れないって言っただろ。どこで何してようが、死んでようが構わない。むしろ人様に迷惑かけずに死んでる方がマシじゃないか。」 「マジで言ってんの…?」 頭がおかしくなりそう。 俺がおかしいのか、それとも親がおかしいのか。 わからない 恐る恐る目を母さんに向けると、顔を引き攣らせて泣きそうな目をした。 アイツの話をするなって。 「そんなどうでもいい事を考える暇があるなら勉強をするか、掃除を終わらせろ。」 「待ってよ。…二人共本気で皐月の事どうでもいいって事?死んでても、知らないおっさんに連れ去られてても?」 「あぁ。」 「…母さんは?」 「……あんな子、知らないの。いらないって言ったでしょ…?」 呆然とする。 呆れる、悲しい、苦しい、そんな感情じゃない。 どうしようもない怒りと嫌悪感に襲われる。 それから 自分でも驚くくらい冷静になれなかった。 今すぐこの二人をぶん殴りたいくらいに感情が爆発する。 「っ、…んな……」 「なんだ?」 「ふざけんなって言ってんだよ!!お前ら能無しかよ、頭も何もねぇのかよ!!なんだよ自分の子供が何回も何回もグチャグチャになって死にかけてもどーでもいいんだな!? 挙句の果てにどこで何してて、死んでるかもわかんねぇのにそれでもいいんだな!?」 出した事ないくらいでかい声が口から飛び出す。 父さんが眉間にシワを寄せ、なにか言おうとする。 けれどその声がする前に俺はまた口を開いた。 「頭が悪い、Ωだから?それがなんなんだよ!!お前らがおかしくしたんだろ、お前らがアイツ殺したんじゃねぇか!成績と数字ばっか見て、他なんも見ないでお前は屑だ出来損ないだってそればっか言い聞かせて!! 俺らの事呼んだって無視してたのはこっちだろ!?助けてくれって…言えないようにしてきたのはこの家じゃねぇかよ、違うか!?」 「香月、親に何……」 「親が偉いか、親なら何したっていいか!?じゃあ親ってなんなんだよ精子と卵子やってるだけでロクなことなんにもしてねぇだろ。親らしく子供育ててきたって胸張って言えんのか!?」 意味がわからない 感情が制御できない 吐き出す言葉は全部ブーメランみたいに俺に突き刺さる そうだよ 兄だからなんだ 何もしてないだろ 利用してゴミみたいに扱って 何もしてないくせに 偉そうに言いやがって でも、でもさ 俺だって流石に 頭下げたいくらいには後悔してんだよ 「Ωになった途端に手放しにして死ねって生きるなって言うくらいならさぁ、あの時殺してやりゃよかっただろ!? そんなんで親になろうなんて思うなよ、子供なんてつくんなよ!!」 張り裂けそうな喉が 血を吐くみたいに 言葉を吐き出して 「産んだなら!!親になったらそれくらいの責任持てよ、最後まで育ててやれよ!! そんなことも出来ねぇならセックスなんてすんなよっ…、ヤって作ってハイ終わりじゃねぇんだよ馬鹿じゃないならわかるだろ!?!?」 シン、と部屋が静まり返る。 俺の荒い息だけが響いた。 「………香月、部屋に戻れ。」 「なんだよ…それ、…」 「頭が冷えて冷静になったら戻ってこい。お前は一時的な感情に飲み込まれるほど馬鹿じゃないだろ。」 父さんは冷たい目で俺を見た。 母さんはボロボロと泣いていた。 「なぁ、…本気で皐月のこと…どうでもいいのか……?」 俺は 何も変えれなかった。

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