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俺は青年の髪を撫でながら、友達だという少年の話を聞いていた。 「僕より少し背が低くて、細くて。言葉は苦手だけど優しい声をしてます。少し前初めてあって初めて話をしたんです。 彼は僕より、酷い扱いを受けてるみたい。」 「この店は格差があるからな。」 「そう。彼は大きな首輪をつけててそれが重いって言ってました。笑うのが苦手…上手く笑えないって言ってたけど、うさぎのお話をする時は優しく笑いました。」 「充分だな。お前はどこでそいつと出会ったんだ?」 「お店の外。お出かけしようと思ったら、買われそうになってて助けたんです。」 その友達との思い出を1通り話した青年は、俺の肩に頭を乗せた。 こうしてただ話すのもそう悪くない。 それに、俺はこの青年のことをあまり知らなかったから今日は何かしれた気もする。 「ねぇ、皆木様は僕のお名前知ってますか?」 「名前?ヒナタ、だろ。」 「そう。そうです!…貴方はずっと僕の名前、呼んでくれなかったでしょう?」 ソレは首を傾げて俺を見上げた。 心底嬉しそうな顔をしながら。 そういえば、俺は他人に興味はなくて。 この青年を選んだのも店の一番人気だったことがきっかけ。 ただの性処理のためにここに来るだけだった。 Ωの匂いは苦手だったし、番にも興味はない。いらない。 そんな風に生きてきたんだ。 「そういえば…そうか。」 「僕、嬉しい。この事も彼にお話しますね。」 「あぁ。…そういえばその友達の名前はなんだ?」 「む…僕をきっかけに僕の友達を抱くのは、なんだか不本意です。」 「そういうつもりで聞いたんじゃない。なんとなくだ。」 青年は怒ったように口を尖らすが、すぐにクスクスと笑った。 それから俺の腕をぎゅっと抱いて微笑む。 「皐月!」 「……さ、つき。」 「そう。僕は太陽のヒナタ。皐月はね、お花なんですって。お花のサツキ。」 そんな訳ない。 「なぁ、そのサツキって奴はいつ頃この店に来たかわかるか?」 そんなまさか 「ええと…僕も詳しくは知りませんが、夏のはじまり。雨がたくさん降る季節が終わったあとからです。」 皐月が、ここにいる訳ない。 「……梅雨終わり、…?」 それはきっと、偶然で。 皐月がいなくなったのと サツキがこの店に来たのが同じ時期なだけで。 たまたま好きな食べ物が同じだけ。 好きな動物が同じだけ。 「皆木様?」 2ヶ月も こんな所で、生きている? 「なぁ、その青年は自分から望んでここに来たか…なんて、知らないよな。」 「……いいえ。皐月は攫われたんですって。帰りたいとこ、あるけど…思い出せないって。」 そうじゃないと思いたかった。 俺は吐き出しそうな思いを飲み込んで、青年の手を離す。 ここには いられない。 「皆木様……?」 「ありがとう。行かなきゃならない場所ができた。」 「……そうですか。」 青年は少し悲しい目をしたが、すぐにニッコリと笑った。 それからいつもと同じ声で 「また、会いに来てくれますか?」 と俺へ問いかける。 いつもなら悩まずに「あぁ。」とだけ答えるが、今日はそうはいかなかった。 もし、皐月と再開すれば俺はきっとここには来ないだろう。 「………また会える。」 「ありがとうございます。皆木様。」 青年は笑った。 俺が嘘を言ったと気付いて。 何が悲しいんだ。 俺はただの大勢の中の一人で、青年はただの店の男で。 それだけなのに。 俺は立ち上がって、荷物を手に持つ。 それから青年の髪を優しく撫で、髪へキスをした。 「またな。」 「はい。」 なんとなく 青年が俺へ向ける気持ちが仕事の感情じゃない事には気づいていた。 仲良くなりすぎたのかもしれない。 青年は正真正銘真っ白な人間だった。 傷のない、優しい人間だ。 俺には 汚れた、壊れかけのアイツを迎えに行かないといけない。 「皆木様、お帰りですか?」 「あぁ。悪いが前のSATSUKIにまた会わせてもらえるか?あの顔が忘れられなくて。」 「ええ、もちろん。」 あの日離した手に 今度こそ触れられる気がした。 * →→→→→→2019 「じゃじゃーん!!!」 「……………猪。」 「の、形をしたケーキだよ!」 自慢げな顔をする奏斗の手に乗ったのは、猪…と言うよりはウリボーの形をしたケーキ。 コタツにすっぽり肩まで入った皐月はそれを見あげて目を輝かせていた。 「可愛い…」 「でしょでしょー!?これは、ボクからキミへのプレゼントさ!」 「奏斗にしてはいいプレゼントだな。」 「ボクにしてはってなにさー!」 「なぁ皐月、コイツ去年の末に俺の家に何持ってきたと思う?」 「んー…今年が猪型のケーキってことは、去年は犬型のケーキか?」 皐月が少し悩んだ後そう答える。 まぁ、そう考えるのが妥当だろう。 奏斗は困ったように笑いながらケーキを机の上に置き、コタツへに足を入れる。 「だと思うだろ。コイツ、大量のドックフード持ってきて部屋にバラマキやがったんだ。」 「は、…?ドックフード!?」 「あっはは!サプライズさ、サプライズ!」 「皆木の家で犬買ってたとかじゃないのか?」 「んなわけないだろ。」 「優は動物嫌いだからね。気分だけでも犬にしてあげようと思ったのに、すっごく怒ってボクに投げてくるんだよ。酷くない!?」 「…いや、それは先生が悪いと思うけど。」 大はしゃぎする奏斗と、完全にドン引きの皐月。 今年は賑やかな年越しになりそうだ。 どんな日があっても どんな年になっても とりあえず締めくくりは。 「それじゃ、2人とも良いお年をー!」 「あぁ。良いお年を。」 「ん。」 良いお年を。 2019年も皐月、優を初め…奏斗、千葉、香月、ヒナタ(もうほぼ出てこないけれど)と羅異音をよろしくお願いします!

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