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懐かしい夢を見ていた。 窓側の席、まだ綺麗な制服を着ていた頃。 チャイムの音とすぐに開いた扉。 ヒラヒラと舞う白衣の裾と黒い髪。 初めて見たその人が『運命』だと知って、世界で一番嫌ったこと。 この人間にだけは弱みを見せたくないと思ったこと。 お互い嫌っていたこと。 どこかで 惹かれてしまったこと。 懐かしいいつかの思い出が、パラパラと絵本のページみたいに流れる。 そんな、痛くて怖い 優しい夢を見た。 「ん、………っ、…」 自然と目を開くと、そこは白い天井だった。 静かすぎる部屋には紙の擦れる音が聞こえて、俺はふわふわの布団の中で眠っていた。 重い頭を動かし右を向くと大きな窓と真っ暗な外が見えて反対を見ると本を読む皆木がいた。 「……病院?」 俺がそう声をかけると皆木は少し驚いたような顔をするけれど、本に栞を挟んですぐに少しだけ笑った。 「あぁ。軽い検査は寝てる間にしたが、明日は1日精密検査になるはずだ。」 「……精密検査…。」 「酷い環境にいたんだ。感染症や、怪我が無いかも調べなきゃならない。それが終わって何も無かったら家に帰れる。」 「ん。」 「これだけ会話が出来るってことは、意識はしっかりしてるみたいだな。痛むところはないか?」 「…平気。」 「こら。嘘つくなよ。」 俺がそう答えると、皆木は持っていた本で俺の頭を軽く叩いた。 ビク、と身体を震わせ目を閉じるとすぐに頭を撫でられる。 「悪い、ちょっとからかうつもりだったんだが軽率だったな。」 「…いや。体が勝手に。気にしなくていいから。」 「今は少し臆病になってるな。だからと言って嘘をついていい訳じゃない。」 「嘘、って……」 「どこも痛くない訳ないだろ。それとも、痛覚ごと死んでるか?」 皆木のいつも通りの口ぶりに少しだけ安心する。 痛くない、ってのは確かに嘘だけど本当にこんな痛みなんてことないんだ。 寂しさも、苦しさも今はほとんど無いから。 …でも痛いといえば皆木は心配してくれるしきっとそばに居てくれるから。 それなら、ほんの少し。 「痛い。」 「どこが痛い?」 「あちこち、痛い。」 「……そうだよな。」 思ってたのと違う反応に少し戸惑ってしまう。 笑ってでもくれるのかと思ったのに、皆木は困ったように眉を下げ悲しい顔をした。 俺が痛いと言えば皆木は悲しんで、俺が苦しいといえば皆木はしょぼくれてしまうのかもしれない。 「でも、大丈夫だから、そんな顔するなよ。」 「…あぁ。俺がお前を心配させたら意味が無いな。」 皆木は取り繕うように笑うと俺の頭を撫でた。 優しくて大きな手がくすぐったい。 いつも に戻ったみたいで安心する。 沢山話したいことがあるんだ。 聞きたいこともある。 ありすぎて、どれから話せばいいかわからないくらい。 でも、きっと今一番言わなきゃならない事は。 「……ごめん。」 「どうした、急に。」 「謝ることしかなくて。どれから謝ればいいのか…わからない。」 そう言うと皆木は俺から手を離す。 シン、とすると窓の外から雨の音が聞こえた。 俺は布団を顔まであげて目線を外す。 お互いなんとなく気まずくて皆木は何も言わなかった。 「……一億、って…そんなの、………俺に使っていい金じゃない。」 「一番謝りたいのはそれか?」 「それだけじゃない…っ、…無視したのも、突然いなくなったのも、探させて、怒らせて…悲しませて。何回も迷惑かけたのに…俺、恩知らずでっ、… 突き放したのは俺のくせに、…助けに来てくれるの、待ってた…かもしれない。」 まだあれも、これも、それも、沢山ある。 口に出せないくらい 俺も気付いてないくらいの謝ることがある。 迷惑しかかけてなくて、何の役にも立たない俺にどうしてこんなに優しくしてくれるのかがわからないんだ。 また口を開こうとすると、皆木が俺の体を布団ごと抱きしめた。 優しく、それなのに強く。 「いいんだよ、……っ好きだから!好きだから、…迷惑かけていいんだよ…!!」 耳元でその声が響いた。 その優しすぎる言葉に 俺は何も答えられなかった。 対になる言葉がわからなくて。 どうして俺は、こんなに優しい人を何度も傷つけてしまったんだろう。 突き放してしまったんだろう。 「…俺、も……っ好き、…だから、…好きだから、迷惑かけたく…っなか、った……」 俺の好きと 皆木の好きはきっとよく似ていて それは多分 他の好きよりも不器用だから 声に出すまでわからずに胸の中で固まっていた。 初めて知った皆木の好きは優しすぎて。 俺は後悔ばかり溢れてきて でもそんな気持ちを言葉にすることも出来なくて ただ、皆木の胸の中で 泣く事しか出来なかった。

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