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皆木の手が俺の髪を撫でる。 涙でひっついた前髪をかき分け、そんな俺を見下ろして優しい顔をした。 「…皐月、これからは思ってる事…ちゃんと声に出して言い合おう。俺達はまだきっと互いの事をわかっていない。黙ってて何もかも伝わる程の仲じゃないだろ。」 「…ん。」 「それでも、やっとお前の気持ちが知れてよかった。」 皆木はそう言うと体を離す。 俺はぼーっと見上げていた。 …俺は好きなんて一度も言ったことがなかった。 そして、言われた事も。 「俺、アンタに愛されてるんだろうなって…言われてもないのにそう信じ込んでた。」 「奇遇だな。俺もお前は俺の事が好きなんだろうって勝手に思ってたよ。」 「……馬鹿だな。」 「お互い様だ。」 皆木が布団を引き、俺の肩まであげた。 目を閉じるとまたバチバチと雨の音が聞こえてくる。 目を閉じたまま、名前を呼ぶ。 「皆木。」 「ん?」 「…目が覚めるまで、傍にいてくれる?」 「あぁ。」 息を吐くような返事。 今度は嘘じゃないとわかった。 目が覚めても、また眠っても。 ずっと隣にいてくれる。 今はそう 疑うことなく信じられるんだ。 * 胸が苦しい。 なんか、上に乗っかかってるような。 …金縛り? そんな感覚で目を見開く。 金縛りかと思ったのに手足は普通に動く。 ただ、体だけが起き上がらない。 首だえを曲げて腹の方へ目をやると、黒い何かが見える。 「………皆木?」 まさかコイツ、人の腹の上で寝てるんじゃ。 なんて思って手で触ってみる。 どう考えても感触は髪の毛で、ついでに温かくて。 あぁ。 皆木がいつも人の頭を撫でるのは、この感覚が好きだからなのかも。 なんて思って何度もその頭を撫でる。 「…おい。」 「ひ、っ……!」 「んな声出すな。…悪い、このまま寝てた。」 いきなり腹から聞こえた低い声に思わず体をビクつかせると皆木が頭を抑えながら起き上がる。 ひとつ大きな欠伸をしては、俺を見下ろして眠そうに笑った。 「いや、……傍にいてとは言ったけど…」 「うるさい。近くて都合の悪い事はないだろ。」 いつも通りの皆木の声。 それだけで変に安心して、それからすごく特別に感じて。 こうやって隣にいるだけで幸せだなんて言うのは少しエゴすぎるかもしれない。 「…怖い夢は見なかったか?」 「ん、……平気。」 「ならよかった。夢の中くらい、幸せじゃないとな。」 「今は現実だって辛くない。」 「そりゃ結構。これから辛い検査だから今のうちに幸せ噛み締めとけ。」 「つ、……辛いのか…?」 「さぁな。」 茶化すように笑う皆木に噛みつきながら、俺も少しだけ笑う。 窓の外はもう晴れていて、太陽が眩しいくらいに入ってきている。 このままずっと 二人きりならいいのに。 何にもないくらい 幸せに生きていけるのに。

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