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皐月が検査へと向かってしまった後、空っぽの病室に1人取り残されてしまう。 椅子に座ってぼーっと窓を見ながらこれからの事を考える。 皐月は一度うちに連れて帰るとして、それからどうするか。 一生一緒に暮らす? アイツは勉強をする事を望んでいるし傷つくことを恐れて家に縛り付けたらそれこそ監禁と変わらない。 自由に傷付かずに生きるのはこんなにも難しい事なんだろうか。 「……他のΩはどうやって生きてるんだ。」 頭に浮かんだのはあの、ヒナタという青年だった。 そういえばヒナタと皐月は友達だったらしい。 その話も聞きたい。 …皐月とは話すこともやる事も決める事も山積みだ。 やっと落ち着いて気が落ち着くとあれもこれも思い出す。 後回しにしていた事や、やらなきゃいけない事。 例えばそれは喧嘩したままになっている親友との関係や、保護したものの連絡を忘れている番の兄のこと。 それから夏休みとはいえすっかり忘れていた仕事の事。 「ぁ"ー……投げ出したい。」 やるなら皐月のいない今しかないだろう。 皐月にいつまでも付いていられる訳では無いし、出来ることならこの先、奏斗の手を借りたい。 ……都合が良すぎる気はするけれどアイツがいないと始まらないのも事実だ。 それに奏斗だって皐月の安否を心配しているだろうし、元はと言えば皐月との関係が喧嘩の原因だ。 これを機に仲直りできるかもしれない。 そうと決まれば事は早かった。 すぐに奏斗の電話番号へ電話をかける。 と、すぐに向こうから声が聞こえた。 『……優?』 「あー……悪い、ずっと連絡しないままで。」 『ううん。…あの、…ね。もう怒ってないの…?』 いつも通り、笑い飛ばしてくれるかと思っていた。 奏斗の声は沈んでいて消えそうだった。 「…怒ってない。感情的になって悪かった。…本当にごめんな。」 『ううん。キミが傷付くようなこと、言うつもりじゃなかったのに。…ごめんね。 優の声聞いて安心した。』 電話の向こうで奏斗が少しだけ笑う。 いつも通りの声に安心する。 お互い、怒ってなんてなかったんだ。 気まずくて話せなかっただけ。 「俺も。意地張ってないですぐ謝ればよかった。」 『あはは、もう大人だからね。すぐにごめんなんて謝れないよ。…ボクだってキミに連絡する勇気出なかったし。』 「俺も今までダメだった。楠本の事がなかったら……」 『楠本クン、何かあったの?』 奏斗がそう食い気味で聞き返した。 そうだ、まだ俺以外は皐月のことは知らない。 俺は昨日から今日への流れを説明した。 無事保護したこと、風俗で働かされていたこと。 怪我の状態や今のこと。 それから兄からの連絡の情報が正しい限りは家に帰れないこと。 『…そっか。また会えてよかった。』 「だな。無事、とは言い難いが五体満足で帰ってきただけでも幸いだ。 出来るだけ傍にいたいがもしもの時はお前にも…」 『キミのためになるならいつだって呼んでよ。あぁ、もちろん楠本クンのためにもね。』 「理解が早くて助かる。…悪いが、他にも連絡しなきゃならないとこがあるんだ。また改めて連絡する」 『わかった。またね、優。』 「あぁ。」 そう話して電話が切れる。 携帯を見つめたまま安堵の息が漏れた。 もう少し、こじれるかと思っていた。 なんて都合よく安心していながらふと思う 奏斗と喧嘩になった原因は何も解決してないんじゃないか。 このままじゃ、奏斗は俺達の関係は認めていないし協力しつつも腹の底じゃ否定してるかもしれない。 「……親友に認められないのは辛いな。」 恋愛なんて甘酸っぱいものではないが、これは確かに二人の感情の問題で。 でもそれは二人だけの事じゃない。 奏斗にも、出来ることなら皐月の家族にも。 俺達の関係を認めてもらえないと意味が無いんじゃないか。

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