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続いて、皐月の兄へ電話をかける。 長い呼出音の後、そのままプツリと切れてしまう。 留守番設定はされていないらしい。 もう一度かけ直してみるが同じ。 今は手が離せないのかもしれない。 履歴は残っているはずだし、見たらまたかけ直してくれるだろう。 携帯電話を横の机に置き、大きく伸びをする。 ここ数日のバタバタ具合は流石に体に堪える。 皐月が帰って来てからはあまり心配はかけたくないし今くらいは楽にしていよう。 椅子に座ったまま机に突っ伏し目を閉じる。 …アイツが帰ってきたら、どんな話をしよう。 * 「皆木様、皆木様!!」 急に大声で名前を呼ばれ慌てて飛び起きる。 後ろを振り向くと、看護師がパニックになりながら俺の名前を呼んでいた。 「どうした…?」 「楠本さんが急に怯えたように暴れだして、貴方の名前を呼んでいるんです。数人係で抑えしようとしたのですが意味もなく…すぐに来てもらえますか…!」 その声にすぐ立ち上がる。 何かがきっかけできっとスイッチが入ったんだろう。 知らない人に囲まれて、ストレスの限界になったのかもしれない。 …今朝まであまりにも落ち着きすぎて気付くのが遅れた。 「すぐに連れていってくれ。暴れ出した時の状況は?」 「診察のために、ベッドに仰向けになってもらったすぐ後です。」 「……医者は上から見下ろしてたか?」 「えっと、…多分、ですが。」 看護師の後ろをついて行きながら恐らく原因はそれだろうなと確信する。 アイツは多分、暗い事と見下ろされる事、それから手を目より上に上げられるのを恐れやすい。 それ以外にもスイッチは幾つもあるのだろうがそれはまだわからない。 廊下の先の診察室の前には数人の看護師が立っていて、中からは悲鳴のようなものが聞こえた。 ドクン、と胸が鳴る。 見たくない 見ないといけない。 俺しか 救えない。 「…許し、て…っ、嫌だ、やめて…助け、…っ、て…!」 「大丈夫だよ皐月くん、ここは…」 「ひ、っぃ……っ、来ない、でお願い、来ないで……っ!!」 まだ枯れたままの声を張り上げてそう叫んでいた。 部屋の隅、棚の陰に隠れ両手で顔を覆ったまま。 俺は看護師を割って部屋の中へ入ると手を伸ばす医者の前に立ち、静かに目の前に屈む。 酷く怯えてるくせに相変わらず涙の一つも流せない不器用な奴だ。 なんて、可哀想な奴なんだ。 「皐月、ごめんな。怖かったよな。」 「……ひ、っぅ……だ、れ……」 「お前が呼んだんだ。ちゃんと見ろ。ほら、怖くないだろ。」 「みな、……皆木、っ…」 手を伸ばすと、怯えていた皐月がその手を握った。 繋がった手は皐月の震えごと伝える。 ガクガクと壊れそうなくらいに震える体を抱き寄せる。 大丈夫だ、怖かったなって繰り返して。 冷たい体温が少しずつ暖かくなって俺の腕の中で収まっていく。 「ごめん、…っ…迷惑、かけない…つもり、だったのに…」 「大丈夫だ。知らない奴に囲まれるのは不安になって当たり前だ。こっから先はちゃんと横にいる。」 「……でも、……」 「言っただろ。迷惑かけていいって。心配だから、隣にいさせてくれ。」 怯えた目のままの皐月が一度頷いた。 よし、と優しく頭を撫でると目を伏せてやっと落ち着くように息を吐く。 気持ちは平気なふりをしてるのに心は返ってこないんだろう。 今はどんなに短時間でも1人にしたらいけない。 まだ何も、終わってなんてないんだから。

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