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天罰

台所、シンクの下に蹲ったままぼーっと歪む視界を見つめる。 片手の携帯電話はコンセントから伸びるコードに繋がったまま。 伸びた髪が顔にかかってチクチクする。 「……頭、いったいなぁ……」 なんて呟いて、携帯を投げ出し床に転がった瓶に手を伸ばす。 中見は空っぽ。 栄養剤もビタミン剤も買わなきゃ降ってこない。 学校に行かない限り外に出る予定はなかったしほとんど家でも動かなかったし。 このまま連絡を途絶えれば、優は心配してここまで迎えに来てくれるかな。 死んでしまえば泣いて悲しんでくれるのかな。 「……ダメだ。外出よ。」 せめて人間らしくいないと、二学期から学校に行けなくなる。 優と彼との関係は再開したみたいだしきっとまた機嫌よく学校に来るだろう。 ボクなんかいなくても優は笑っていられるんだから。 せめて、迷惑はかけないようにしなきゃ。 優のあの笑顔を少しも減らしたくなんてない。 グルグルと腹の中で何かが回る。 もう水すら飲んでないのに? 『楠本に会えたんだ。昨日も笑ってた。よかった、本当に…よかった。』 嬉しそうな優の声。 久しぶりに聞いた優の声。 あの笑顔も、あの声も。 僕じゃない誰かに向けられる。 なんか。やだな。 黒いTシャツ1枚で外に出る。 空が曇っていることだけが救いだ。 これがカンカン照りだったら一歩出てそのまま帰ってたかもしれない。 財布と携帯だけポケットに入れて近くの薬局まで歩いていく。 食べ物と栄養剤だけ買って帰ろう。 学校が始まるまでに体調整えておかないと。 と、前に立てば開くはずの自動ドアに頭をぶつけて思考が止まる。 ……あれ? 「今日、薬局休みですよ。」 後ろから聞こえた声に仕方ないなとため息をつく。 「どうも、ありがとうございま………す。」 「………生きてます?」 今日は諦めて帰ろうと振り向いた先、紙袋を抱えてボクを見るのはいつか背中を押して突き跳ねた一人の生徒。 健康そのものみたいに肌は焼けて、それなのにぼんやりした目を向けていた。 「…ストーカーかな。」 「まさか。たまたま買い物帰りに先生が死にそうな顔で歩いてたので。ちゃんと食べてますか。」 「ううん。…吐いてもなんにも出てこない。お腹痛いよ。」 「それはそれは。とりあえずあの。何買いに来たかしりませんけど…うち、来ます?」 カクンと、彼は首を傾げる。 あんな事があったのにどうしてそう今まで通りに接せれるんだろう。 ボクはなんか何もかもどうでもよくなってどうにでもなれってそんな気持ちだった。 「家族、いないの?」 「皆ばあちゃん家行ってます。すぐそこなんで、ほら。」 「……無理やり食べさせようとしたら殴るよ。」 「殴られても食べさせます。」 彼はクスクスと笑ってボクの前を歩き出した。 ボクはその後ろについて歩きながらも、なんとなくまだ分からなかった。 なんで彼はボクに執着するんだろうと。

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