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形だけでも、と一応買ってきたのはかごに入ったブリザーブドフラワー。 これなら置いとくだけだし邪魔にならないはず。 大きめの袋をゆらゆら揺らして優から連絡がきた通りの病室の前に立つ。 優は少し前に出ていったらしくて丁度入れ違いだ。 …楠本クン、元気かなぁ。 コンコン、とノックして息を大きく吸い込む。 奏斗 から 時枝先生 に変わる準備。 「おっはよー!やぁ、元気かい?」 「…先生。」 勢いよく開けたドアと、ベッドの上の楠本クン。 怪我だらけだったらどうしようと思ったけれど少し痩せたくらいで外傷はほとんど無いみたいだ。 「優の代わりに付き添いに来たよ。体調はどう?」 「大丈夫。割と元気。」 「よかった。何があったから優から聞いたけど、……おかえり。本当によかった。これからはもう我慢なんてしなくていいんだからね。」 「ありがとう。先生に言われると、なんか…説得力ある。」 「ホント?あっはは、よかった。」 隣の椅子に座って二人で笑う。 なんだ、元気そうだ。 楠本クンの目がボクの膝の上にある袋に向く。 …まぁ気になるか。 「お見舞いにね、何がいいかなぁと思ったんだけどやっぱりメジャーなお花がいいと思って。…じゃん!可愛いでしょ?」 「……綺麗。それにいい匂いする。」 「花の名前はよくわからないけど、なんか幸せになれるとかなんか書いてあったよ。ブリザーブドフラワーってやつで枯れないからそのまま置いといて大丈夫。」 「ドライフラワーみたいな?」 「うんうん、多分その友達!」 そう言いながら籠を手に持ってじっと見る。 ハズレじゃなかった、ってことだな。 入ってた袋を小さく畳んで花を見つめる彼を覗き込む。 「気に入った?」 「すごく。」 「よかったよかった。どこに飾ろうか。ここでいい?」 「…あ、そこは皆木が読みかけの本置くから。あっちの窓のとこ。」 「窓?うん、風が吹いたら匂いもするしいいかもね。」 優の名前が出て一瞬思考が止まる。 …あぁ、もう。 彼の手から花を取り上げ、窓際に置くと太陽が照らした。 確かに置き場所にはもってこいかもしれない。 「そういえば声、戻ったんだね。」 「…あぁ、うん。少し前に。」 「喉に違和感とかは?」 「もうない。最初は上手く話せなかったけど、今はちゃんと話せるし。」 「それじゃ一安心だね。筆談大変だったでしょ?」 「少し。紙、邪魔になるし。」 「あー確かにね。」 なんて、どうでもいい世間話をしながら時間が過ぎるのを待つ。 今日の朝食がなんだったか、とか退院したら何したい?とかどうでもいい事。 変に学校とか優の話題は出せないし変なとこで地雷を踏むのも嫌だ。 当たり障りのない会話が一番安全。 「そういえば、優何時頃に帰ってくるか聞いてる?」 「昼過ぎ…2時くらいって。」 「あー…案外遅いね。また、ボクの方に連絡来たら言うね。」 「ん。」 楠本クンがそわそわと落ち着かないように外を見たりドアを見たりする。 一刻も早く帰ってきて欲しいんだろうな。 2人きりの時、優はどんな顔をするんだろう。 どんな話をするんだろう。 どんな声で、どんな言葉で。 「ねぇ、楠本クン。」 「ん?」 どんな風に愛を紡ぐの? なんて、聞いてもきっと困った顔をするだけだ。 「実は、御見舞の定番!りんごも買ってきたんだ!ボク切ってあげるね。」 「ありがと。りんご好き。」 「うんうん、りんごはみーんな大好きだよ!」 余計な事は考えない方がきっと彼にとってもボクにとってもいい選択肢だろう。

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