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視界に真っ赤な夕焼けが見えた。 ボクはぼーっとそれを見ながら歩く。 先は見えない。 ふと横を向くと、土手に少年が2人肩を並べて座っていた。 ボクは二人の後ろに立ち聞き耳を立てる。 「二人で生きていこうな。」 「うん。」 「俺達は、あんな卑怯な大人にならないでおこう。きっと二人で幸せになれる。」 「──…が言うならきっと間違いないね。」 セミロングくらいの髪の青年がそう言って笑った。 振り向いた顔には大きな絆創膏が貼ってあって、目元には青痣が出来ていた。 「いつか大きくなったら、きっと…ボクらは自由になれるから。」 何も疑わない目。 未来に期待をした罰だ。 人を愛した罰だ。 ボクは、その子の背中を突き飛ばす。 土手の坂を転げ落ちていく姿を見てボクは涙なんて出なかった。 ずっと向こうまで落ちて、青年の腕が取れても血だらけになっても。 「死んじゃえ、キミは死んだ方が良かったよ。」 ボクじゃないみたいな低い声が出た。 頭が、痛い。 パチリ、と目を開く。 ここは残念ながら土手ではないらしい。 真っ白な天井を見上げて何かを思い出そうとする。 頭がグラグラと揺れてあまり思い出せない。 ただ、ここが病院だって事と右手が誰かに握られていることだけは分かった。 「誰?」 そう呟くと、手を握っていた人は反射的にボクの手を強く握ると勢いよく立ち上がった。 霞む視界にいきなり顔が飛び込んでくる。 「……先生、…っ……」 泣き出しそうな顔にボクは少し呆れたような声が出る。 どうしてキミがそんな顔をするんだ。 「死んだと思ったのに。」 「……結構、危なかったんですよ。」 「骨何本折れてた?」 「ヒビが少し。コルセットつけて安静にしてたら大丈夫らしいです。またちゃんと説明があると思いますけど。…とりあえずお医者さん呼びますね。」 「うん。ありがと。」 何故か、冷静だった。 正直あのまま階段から落ちて死んでしまえばいいのにと思っていたから生きてる事に納得がいかない。 「楠本クンは?」 「誰かのおかげで無傷です。でも、貴方に怪我をさせた事と迷惑をかけた事のショックでさっきまで錯乱状態でした。今は薬を飲んで眠っています。」 「……そう。助けない方が良かったかな。」 「いえ。すごく、勇気のある…正しい行動だったと思います。」 「それならよかった。」 その言葉に安心して目を閉じる。 これで、助けた事を恨まれたらあの時の勇気も意味が無いから。 ボクは握られた右手を軽く握り返して浅く息を繰り返した。 確かに背が痛い。 頭も痛いし腕も少し軋む。 強く打ち付けたせいかな。 「先生もすごく感謝してました。後で会いに来るって。」 「お医者さん?」 「皆木先生ですよ。」 「楠本クンの担当医の人かな。名前まで覚えてないよ。」 「は?」 いきなりタメ口を聞かれてビックリする。 でも、首を曲げるのは少し痛くて彼の方へ顔は向けられない。 むかつくから右手に少し爪を立ててやる。 「何、ボク変な事言った?」 「……冗談…です、よね……?」 右手が強く握られて、視界に千葉クンの顔が写り込む。 線が二重に見えて表情までよく見えないけれど。 笑っているようには、見えなかった。

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