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夕食のお粥を少しずつ口に運ぶ。 味はほとんどしなかった。 皆木によると、今の俺の胃と腸はあんまり機能してないらしくほとんど液体みたいなお粥しか食べられないらしい。 最初の方は点滴しか出来なかったしまだマシになった方だ。 「美味いか?」 「味ない。」 「ま、だろうな。病院での飯なんてそんなもんだ。」 「…わかってて聞くなよ。」 「いや、貧乏舌のお前なら美味しいとか言うかもなと思って。」 馬鹿にしてるのか、こいつ。 レンゲをお粥の中に半分沈めてまた持ち上げる。 味がしないのはもちろんだけど、このまとわりつく様な食感がなんとも言えない。 つまり、まずい。 「早くまともなもの食べたい。」 「退院したらいくらでも食わせてやる。だから、今はその不味そうな粥食っとけ。」 「ぅ……不味そうって言うなよ。というか、アンタは飯食べないのか?」 「俺はお前が寝てる間に食べた。そんなの食べてる前で俺が美味そうにカツ丼食べてたら腹立つだろ。優しさだ。」 「言ってる時点でほとんど配慮できてないけどな。」 皆木が馬鹿にするみたいに笑うと「悪い悪い」なんて言って俺の頭をポンポンと抑えるみたいに撫でる。 何でもかんでもこれで許されると思ったら大間違いだ。 すねたフリをして頭を振って手を振り払い、またお粥へ口をつける。 ぬるくなった米が余計にまずい。 「なぁ皐月。明後日、検査結果出るだろ?」 「ん。」 「それで退院の目処がついたら、お前の家族と話しをさせてくれないか。」 「……話、…」 急な家族との話題に、まだ半分はお粥の入っていたレンゲをまたお粥の落とす。 別に嫌なわけじゃない。 いつか親と皆木を会わせなきゃならない日が来るのはわかっていたし後ろめたい事がある訳でもない。 それでも湧いてくる感情は 怖い というものだった。 「何もすぐに全部解決させたい訳じゃない。退院した後、お前がどこで暮らすかをちゃんと話したいんだ。このまま俺の家に連れ帰って誘拐なんて言われたら元も子もないだろ? もちろんお前の意思が第一優先だ。お前が望む結果になるように、俺は話をつける。」 「…俺は、皆木と居たい。」 「俺も同じ気持ちだ。」 皆木はそう言うと、レンゲを手に取りお粥をすくう。 それから俺の口元へ寄せながら話を続けた。 強制的に早く食べさせようって作戦だろう。 「今はまだ、俺達は感情だけだろ?本当に番になって一緒に生きていくなら必ずお前の親の許可は必要だ。駆け落ちなんて事はそう出来ない。 二人で生きていくってのは、そういう事だ。」 「……わかった。怖い…けど、一緒なら大丈夫。」 「あぁ。俺もだ。」 残りが少なくなった器を傾け、お粥をかき集めながらそう呟いた。 伏せた目のせいで表情が見えない。 「アンタも怖いのか…?」 「そりゃそうだろ。いつだって怖くて不安だ。」 「…そう、見えなかった。」 「大人ってのは汚いからな。いくらでも自分を慰める手段を持ってるんだよ。お前にバレて無かったなら、大成功だ。」 「手段って?」 レンゲに山盛り入ったお粥が差し出される。 口を開けて食べようとすると、寸前で崩れてレンゲの中身が半分まで減ってしまう。 そんな光景を見て二人でなんとなくクスクス笑いながら、最後の一口になるはずだったそれを口に含んだ。 「酒と、煙草。後は夜遊びだな。……それと数少ない友達だっていた。」 「時枝先生か?」 「あぁ。アイツがいなきゃ、お前とこうはなってない。」 確かに、先生はいつもよくしてくれた。 俺と皆木の事を気にかけてくれてチグハグになりそうになったら繋げてくれた。 泣き出しそうな時は笑ってくれて、閉じ込めた時は泣いてくれた。 魔法使いみたいで 不思議な人だ。 口の中身を飲み込み、そうだ と声に出す。 窓際に置いてある籠を指さした。 「あれさ、先生が今日待ってきてくれた。枯れないんだって。」 「へぇ。今の科学は便利だな。」 「…ロマンの欠けらも無い事言うな。」 「率直な感想だろ。」 「まぁ、そうだけど。」 俺がそう言うと、今度こそ最後の一口を差し出される。 大口を開けてそれを食べると「よく出来ました。」なんて言ってレンゲを器に投げ入れた。 カラン、と軽い音がしてそれと同時に皆木は立ち上がる。 どこに行くのかと目で追うと話していた花へと手を伸ばし、空になった器と入れ替えた。 「…花なんて、こうじっくり見るの小学生以来かも。」 「確かにな。次あった時、奏斗に俺からも礼を言っとく。」 「ん。ありがと。」 「どういたしまして。」 静かな病室で二人で花を見つめてどうでもいい会話をしていた。 ただ、一つだけわかった事は二人とも花には疎くてここに並んだ花の名前が一つもわからなかった事くらい。 ほんのり甘い匂いを嗅ぎながら、こんな日が続けばいいのに なんて願っていた。

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